素っ裸のままで
初出『素顔のままで』劇場用パンフレット
デミ・ムーア最大の謎は、デミにはなんの謎もないということである。デミはすべてを見せている。なにひとつ隠し立てしていない。だが、そんなことが本当にありうるのか? あんなにも自分をさらけだし、スッピンの顔を見せて、それでもスターでいられるなんて。本当にそんなことが許されていいのか?
まずなんといってもデミ・ムーアは演技が出来るように見えない。デ・ニーロやメリル・ストリープのような、カメレオン的な演技など望むべくもない。演じているのはいつも同じキャラクターだ。すなわち、自分のセックスを売り物にする女。
『幸福の条件』では百万ドルで身を売る一夜妻である。「体だけよ、心までは売らないわ」と言って、いそいそと大金持ちのベッドに滑りこむ。金なくしてなんの幸福か! これはデミの本音なのだろうか。この映画は、身を売ることは彼女自身の選択であり、それゆえ尊重されなければならない、と宣言する。自分の身体は自分一人だけのものである。夫のものでも、金を積んだ大富豪のものでもない。あくまでも自己決定権を尊重することで、デミは売春を正当化する。デミ・ムーアは、売春婦こそがもっとも徹底したフェミニストだ、と主張しているのだ。
『ディスクロージャー』では、部下になった元恋人に仕事と引き替えの情事を迫るセクハラ女上司である。これだけならただの攻撃的なニンフォマニアだが、これは実は部下マイケル・ダグラスを陥れる罠だった、ということが最後にあきらかにされる。あくまでもセックスを道具に使って、のし上がる攻撃的な女なのだ。もちろん、他にもデミの超攻撃的セックスなど、見るべきところは多い(だいたい、マイケル・ダグラスがセックスを拒絶できるのか、という根本的な問題があるんだけど)。
だけど、それは演技だけのこと、映画の中の話ではないか? いや、現実にもデミ・ムーアは自分のセックスを武器にしてのしあがって来た。そもそものスタートは男性雑誌のヌード・モデルである(大股開きの写真まである)(陰毛濃し)。『きのうの夜は……』あたりから“脱ぎっぷりのいい若手女優”として評判になる。そもそも、この映画で演じた役が会ったその日にセックスして、後から将来のことを考えはじめるというアーパー女だった。大ブレイクした『ゴースト/ニューヨークの幻』では脱いでこそいないが、脱ぐよりエロいペッティング・シーンで客を誘惑する。『幸福の条件』でも『ディスクロージャー』でも、もちろん“物語上の必然性から”脱ぐ。あまり必然性がないように思える『スカーレット・レター』にも無理矢理水浴シーンを入れさせた。デミは、観客が何を求めているのか、よく心得ているのである。彼女が脱げば脱ぐほど、客は劇場に集まり、映画はヒットする。デミのステータスも上がる。デミはついにハリウッドで最高級取りの女優の座まで登り詰めたのだ。セックスのみを売り物にして。
妊娠したらしたで、妊婦姿を売り物に『第七の予言』に出演する。よりによって悪魔の子を妊娠する母である。縁起が悪いとか、そういうことは考えないのだろうか? いや、徹底したプラグマティストであるデミ・ムーアにとっては、妊娠も子供も旦那も、ひとつの商品価値でしかないのだ。
妊娠したと言っては妊婦ヌードを撮り、子供が産まれたと言っては母子ヌードを撮る。ここまで来ると、金のためだけとはとても思えない。自分でも、やっぱり脱ぐのが好きなんじゃないだろうか? 実際、「ヌードになるのは素晴らしいことなのよ」という発言も何度かしている。脱ぎたい女が脱いで金をもらう。それも正義のために! なるほどこんなにいいことはあるまい。というわけでデミの家族はみんな彼女を見習って脱いでいる。もういい年をした母親も、バーを開く金欲しさから〈プレイボーイ〉で脱いだ。さすがのデミも「みっともないことやめてよ」と怒ったようで、ネガを買い取って掲載を止めさせている。母親いわく「自分は旦那も娘も脱がして稼いでるのに、なんでママが脱いじゃいけないのよ」たしかに夫のブルース・ウィリスも脱ぎたがり屋で、何かと言えば胸毛を見せてるような気がする。『12モンキーズ』でもしっかり全裸になっていたし、『薔薇の素顔』では、自分のチンポコを見せるシーンがカットされたと言って怒り狂った。「女性の正面ヌードは見せるのに、男性のはダメだってのはどういうことだ! これは男女差別だ!」誰も見たくないだけだと思うんだけどね。
裸が好きだから裸になる! セックスが好きだからセックスする! 誰にも文句は言わせない! それがデミの生き様だ。したがって、映画の中でも実人生そのままに脱ぎつづけてきた彼女の集大成が『素顔のままで』だというのも驚くにはあたるまい。脱げば脱ぐほどビッグになるという不思議な女優(一番不思議なのは、誰もそのことに疑問を感じていないように見えるという点だが)は、全ストによって光輝くのだ。ストリップ・シーンを(娘役を演じる)実の娘に見せて、「ママの裸ってきれい」と言わせるとき、ついに彼女の人生と芸術とは一致する。このシーンについて「娘にストリップを見せるなんて!」と非難されたデミは、昂然と言い放ったという。「うちでは裸はみっともないものじゃない、と教えてます。うちの中じゃみんな裸ですから」そう、“素っ裸のままで”デミはスターなのである。
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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com