パム・グリアー九十九の秘密
初出『BACHELOR』1998年2月号(ダイアプレス)
パム・グリアー最大の謎とはつまりそのスタイルだ。なんでパム・グリアーのスタイルは変わらないのか? 普通どんなグラマーでも年をとれば乳がしぼむとか垂れてくるとかウェストが辛くなるとかなんかあるもんだが、パムに関してだけはそういうことはない。1950年生まれ、御年47歳のパム・グリアーは70年代の全盛期とまるで同じ体型をしている(ちょっぴり頬がこけたくらいか)。
そう考えて日々悩んでいたのはぼくだけじゃなかった。そうとわかったのはティム・バートンに会ったときのことである。『マーズ・アタック』で子供二人を育てる肝っ玉シングル・マザーというすてきな役をパムにふったバートンは予想通り年期の入ったパム・ファンだった。映画を見るしか能のなかったオタク少年時代、毎日のように通っていたB級映画三本立て館で見たブラックスプロイテーション映画のヒロインがパム・グリアーだったわけである(ちなみに『吸血鬼ブラキュラの復活』だそうな)。かつてのオナペットをヒロインにするのは映画監督の本望だが、その相手がパムだってとこがもうオタクねえ。ところでパムの話になったら、バートンくん別に聞いてもいないのに「ねえ、スタイルも何も昔と全然かわんないんだもんねえ。びっくりだよウキャキャキャキャ(狂気の笑い)」
「あれ、サイボーグじゃねえのか」そう言いたくなるのは『クラス・オブ・1999』でサイボーグ女教師役をやったりしていたからである。実は戦闘用サイボーグだったというパムは全身武器で、校内でバズーカ砲をぶっぱなして不良少年を殲滅する! へっ、パム様に逆らったりするからそんな目に遭うんだぜ。バートンみたいに昔のパム映画をしっかり見てれば、パムを怒らすのがどんなに恐いことかわかっているはずである。
パムのデビュー作はなんとラス・メイヤーの『ワイルド・パーティ』(人脈をたどっていくとみんなつながっちゃうんで面白いね)。これは端役だったが、その豊満なスタイル、整った美貌と高く上がる足がほっとかれるはずがなかった。ジャック・ヒルのアクション映画に数本出演したが、73年についに『コフィ』で完全ブレイク。
♪こふぃー こふぃーは肌のいろー こふぃーは世界のいろー♪とお間抜けなテーマ・ソングにのって登場するのはスーパー看護婦コフィことパム・グリアー。一応看護婦なんだが、どっちかというと人を助けるよりも殺す方が得意らしい。実は彼女には麻薬中毒で廃人になってしまった妹がいる。コフィは妹の復讐のため、麻薬組織の壊滅を狙っているのだ。たちまちはじまるてんこもりのアクション。女が出てくればすぐにキャットファイト、そして男はかならずコフィのブラをはぎ取る! BFと一緒にいるところを襲われるシーンじゃあ、わざわざ悪党の一人が「んーこのまま帰るのはもったいないな」ってレイプしようとブラをはがし、しかしそこで「やっぱ時間ないしやめとくかー」てな感じで帰っていくのだ。なんたるサービス精神! 売春婦に化けて潜入したコフィは変装がバレて始末されそうになるが、最後はマシンガンを持って敵の本拠地に殴りこみ、全員皆殺しで完全勝利。もちろん見ているこっちもノックアウト!
パムはグラマーでセクシーで強くて、しかもセックスOK! 黒人=セックス強い、という誰もが知っていながら口に出さない真実をパムは明るみに出したのだ。当時の傑作『フライデー・フォスター』では、パムは売れっ子カメラマン(まあ、どんな役だろうと似たようなもんだが)。ひょんなことから黒人世界を揺るがす大陰謀の証拠をつかんでしまったパムは、その裏を探るうちに黒人界きっての大富豪や黒人界の新進政治家と知り合いになっていく。大物たちはもちろんみんなパムに一目惚れ! パムの方も「あらすてきぃ」とか言ってすぐセックスしてしまう。全然湿っぽくならないし、もちろん男同士も嫉妬なんかしない。それはもはやパム様をあがめる下僕のごときである。すべてがパム様の思うがまま。男と寝るのも男を捨てるのもすべてパム様の思し召しにしたがうのみである。ちなみにここのパム様はあんまりハードじゃないので、アクションシーンではきゃあきゃあ言ってるだけなんだが、それもまた良し。いやーんと言って拳銃ぶっぱなすとか、もう、あんた。
完全無欠なボディにしてこの無邪気さ。パム様こそまさしくマザコンなオタクにとっての女神さまなのである。ちなみに最高傑作『フォクシー・ブラウン』だと、ボーイフレンドの敵を取るため麻薬組織を撃滅するパムは殴られ蹴られ縛られ麻薬をうたれ輪姦されてと辛酸の極を舐めさせられる。かなりえげつない描写にもかかわらず、パムにかぎっては汚れるってことがない。ともかく打ちひしがれた敗北者がこれほど似合わない女性も珍しいだろう。どんなひどい目にあっても三分もするともう元気を取り戻しているのだ。しかもそうなったときのパムは恐いよ。『フォクシー・ブラウン』では最後の復讐で敵の親玉をジョン・ウェイン・ボビットしたうえ、切り取ったブツを瓶詰めしてその恋人にプレゼントしてしまうのだ。
去勢恐怖がトラウマになったのか単にオタクだったから強い女神様に憧れただけなのかは知らないが、最近ハリウッドでのしてるオタク系監督にはパム様のファン、いや下僕が多い。たぶん精通のころに刷りこまれてちまったんだな。そいつらが力をつけてきたおかげで、最近時ならぬパムの再評価がはじまっている。『マーズ・アタック』でギャラ的には数十倍の女優たちをさしおいてヒロインを演じたほか、ジョン・カーペンターの『エスケープ・フロムLA』でもピーター・フォンダの横で快演。そして年末にはハリウッドにおけるオタク総本家クエンティン・タランティーノの『ジャッキー・ブラウン』がある(タランティーノは事務所にパムのポスターを貼っている)。なんと『フォクシー・ブラウン』へのオマージュだというこの映画、ほぼ25年ぶりの続編なのだが、パムならそれくらい大丈夫。なんせ昔と何も変わってないんだもの。まるでアニメのヒロインみたいに、リアル峰不二子ことパム・グリアーのセクシー・ダイナマイトは時空を越えて永久保存されているのだ。
Back to Index Film Index
Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com