監督(たち)インタビュー

初出・『宝島 1994 4/9』
 こいつはちょっと普通じゃない。尋常な映画をお望みの向きは見ない方がよろしい。主人公のベンは連続殺人者だ。生活のために人殺しをするとうそぶいて、強盗・殺人をくりかえしている。そこに、ベンを絶好の素材だと考えてるドキュメンタリー映画作家が現れる。ベンはカメラに向かい、正しい殺人のやり方を得々と語るのだ。
 作ったのはベルギー出身の三人組。製作/監督/脚本/撮影/主演……要するに、三人で全部やったってことだ。レミー・ベルヴォー(映画監督役)、ブノワ・ポールヴール(殺人鬼役)、アンドレ・ボンゼル(キャメラマン役)の三人だが、インタビューするうち、どれが誰だかさっぱりわからなくなってしまったんで、一人にまとめた(以下レブアと表記)。

−−映画に”グレゴリー坊や”ってカクテルが出てくるよね(どういうものかは、映画を見てのお楽しみ)。これって実際に誘拐された少年のことなんでしょ?
レブア そう、10年前にフランスであった事件なんだ。男の子が誘拐されて、川から死体であがった。母親が犯人じゃないかって投獄されたり、父親が義理の息子を殺したりいろいろあって、10年間フランスのマスコミは騒ぎっぱなしだった。おかげで、くだらないジョークもいっぱいできたんだよね。
−−ベンが人殺しの仕方を事務的に説明するでしょ。死体の沈め方とか。あれってすごくおかしいんだけど、どこで調べて来るの?
レブア (笑)目茶苦茶言ってるだけだよ。
−−なんだ。じゃ、あの通りやっても人殺しはできない?
レブア (笑)うーん。意外とうまくいったりして。やってみたら?
−−やらないって。ところで、殺人鬼を追いかけるドキュメンタリー映画って、どこで思いついたの?
レブア テレビってすごくのぞき趣味で、他人のプライバシーに土足で踏みこんでくるでしょ。それがまた安易に受けている。どんどん悪い方に向かってる気がするんだよね。暴力シーンとかばっかり追いかけて。そういうのの一番極端なかたちをやってみたかったんだ。実際、フランスじゃあ、殴り合いをして殺されかかってる人を、助けようとしないで、カメラが撮ってるだけって事件があった。まあ、最後には助けたんだけどさ。
−−でも、日本じゃ本当に殺されたこともあるよ(豊田商事・永野会長刺殺事件のこと)。
レブア それって日本じゃ『ありふれた事件』なの?
−−ちゃんちゃん。


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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / PDE01513@niftyserve.or.jp