マブな会話/タランティーノと『ジャッキー・ブラウン』を語る

書き下ろし


 クエンティン・タランティーノの最大の魅力は、趣味の良さ−−というか悪さ−−だろう。実際監督させると映画がやたら長くなるし、演技はクサいし、脚本を書かせると演出に文句をつける……といった具合で、実は映画を作る上では欠点の方が目立つ男である。にもかかわらずどうしても捨てられないのは映画ファンとしてあまりに趣味が良すぎるからである。育ちがモロに出ている、とでも言うか。なんか映画を見ているだけでわかってしまう。こいつはどうも同じようなことを考えながら、同じような映画を見てきた奴に違いない。まちがいなくマブダチになれる奴だ。今時パム・グリア主演でアクション映画を作ろうなんて考える奴はみんなトモダチだ。

 だからタランティーノが来日したときにはさっそく会いに行った。トモダチになろうと思った。

−−パム・グリアの映画はよく見てたんでしょ? 昔黒人街に住んでたって話だし。

 ああ、ああ。俺は黒人街のはずれに住んでた。パム・グリアの映画はよく上映してたから、通って全部見たよ。大ファンだったぜ。

−−最初に見たのって何なの?

 たぶん『コフィ』じゃねえかな。

−−それって10歳ぐらいとか?

 いやいや。もちろん初公開のときに見たわけじゃない。封切りは……たしか73年かな。『コフィ』や『フォクシー・ブラウン』が公開されたとき、広告を見て「見たいなー」って思ってたけど、実際に見たのは……76年くらい? ブラックスプロイテーション映画っていうのはさ、ずっと上映されつづけてるんだよ。『ジャッキー・ブラウン』の保釈保証金貸しオフィスがあるカーソン市ってのがあるんだけど、そこにカーソン・ツイン・シネマって映画館があるんだ。そこが街に来るエクスプロイテーション映画は全部やる、みたいな劇場なんだけど、なんか入りの悪い映画があるたびに『燃えよドラゴン』みたいなカンフー映画とか、『マック』や『コフィ』みたいなブラックスプロイテーション映画を引っぱり出してきて上映するんだ。そうすっとみんな出かけてって見るわけ。

−−パムはブラックスプロイテーション最大のヒロインだったわけだよね。

 そりゃもちろんさ。でもそれだけじゃなくて、パム・グリアはアメリカ映画の歴史上で唯一無二の女性のアクション・スターなんだ。タイトルの前に「パム・グリア主演」『シバ・ベイビー』って出る存在だった。ファンも大勢いて、男も女も彼女の映画を見に行った。彼女の前はそんな存在はいなかったし、彼女の後を継ぐ者もいなかった。シガニー・ウィーヴァーは……あれは単にアクション映画に出てるスターだよな。

−−事務所にポスター貼ってるんでしょ?

 ああ。だってよ、パム・グリアのポスターは世界一クールじゃんかよ(笑)。ともかくブラックプロイテーションのポスターが好きでオフィスの壁にベタベタに貼ってるんだ。したら『パルプ・フィクション』のオーディションでパムがオフィスに来てさ、「白状しなさいよ、あたしが来るっていうんでこのポスター貼ったんでしょ?」(笑)。いやいや、あなたが来るから剥がそうかと思ったくらいでさ。

−−やっぱりパムがドリームガールだったんでしょ?

 ん。そう思う奴は多いんだけどさ、そういうわけじゃないんだ。子供のころ彼女の映画ばっか見てたけど、だけど恋い焦がれてたってわけじゃないんだ。恋してたとかなんかしたいと思ってたとかじゃないんだよ。なんていうか、崇拝してたんだ。彼女はクールな、クールな女[スケ]だって思ってたよ。もちろんまわりは彼女に恋してる奴ばっかりだったけどね。

−−ふーん。ところで映画の中でロバート・フォスターがパム・グリアに対して「きみは二十九のときから全然変わってないだろう」って言うよね。あれってきみの感想なんじゃないの?

 だって本当じゃないか(笑)。パムはね……吸血鬼かなんかだよきっと。処女の血をすすって若さを保つのさ!(笑)四十五歳にはとても見えないだろ? ところで俺の意見かってことだが……俺に言わせりゃ同じじゃない。昔よりずっと良くなったよ。昔はセクシーでゴージャスだったけど、今は本当にきれいだ。今はまさに女って感じ。

−−いやティム・バートンもおんなじこと言ってたんだよね。『マーズ・アタック!』のときにそういう話したんだけど、「パム・グリアって全然年取らないよね」とか。

 いや本当にそうだよ。でも何、『マーズ・アタック!』のインタビューでパム・グリアの話してたの? それってクールじゃん。

−−まーそういう話しかできないですから。ところで昔のアイドルを演出するのってどんな気分だった?

 んー、俺はそういう風には考えないんだ。映画を作ってるときはプロなんだから。ファンやってるのはオフの時間だけだ。映画のときにはいい作品を作るため、最高の演技をしてもらうために共同作業をするんだよ。パム・グリアやロバート・デニーロと一緒に仕事をするっていうのはさ……夢中になって打ち合わせをしてる最中、ふと、こう気づくわけよ「おい、あれロバート・デニーロじゃないか?」ってさ(笑)。映画のオープニング、パム・グリアのクレジット・タイトルを撮ってるときとかさ。それってクールだろ。

−−でもまあ今時『フォクシー・ブラウン』の続編作ろうって思うこと自体充分ファンだと思うけどな。パムの出演作を作るっていうのは、エルモア・レナードの〈ラム・パンチ〉を映画化することになる以前から考えてたの?

 原作を読んで、そこでどうやって映画化するかって考えたわけよ。この主人公に誰がふさわしいか、この年格好で……って考えたときに、ふとパムのことを思い出したわけよ、それでバッチリさ。

−−それにしても、『ジャッキー・ブラウン』のパム・グリアって『フォクシー・ブラウン』の二十年後の続編って感じがするよね。そういうのって意識してた?

 まあジャッキーのキャラクターがすごく大きいから、これ自体が彼女の映画だというのはある。それにパム・グリアみたいな、大きな背景を持ったイコン的存在は映画そのものをパム・グリア映画にしちゃうんだ。たとえばいたぶられた男が切れて復讐する映画を作って、それをチャールズ・ブロンソン主演にしたら、それはもうチャールズ・ブロンソン映画だ。だからこれはパム・グリア映画なのさ。もちろん昔みたいにショットガンで頭をふっとばすとか、ナイフで何をかっ切るとか、カンフーで男どもをぶちのめすとかってことはない。コミックブックのキャラクターじゃなくて、ちゃんとしたリアルな人間だ。それでもこれはやっぱりパム・グリア映画なのさ。だから、そうだな、これはパムと、パムが表現しているものへのラブレターってことさ。

−−『ジャッキー・ブラウン』に関してスパイク・リーが「ニガーって言い過ぎる」とかって批判してたよね。あれってやっぱりパム・グリア映画を作られちゃった嫉妬なのかな。

 嫉妬だよ。嫉妬があいつのいちばん、いちばん、いちばん大きな原動力なんだ(笑)。白人に黒人映画を作られてしまったことへの嫉妬がね。

−−ところでシド・ヘイグが判事役で出てたよね。シド・ヘイグといえばジャック・ヒル監督のパム・グリア映画の常連だったわけだけど、これはジャック・ヒルへのオマージュなの?

 当然だぜ。あれはシド・ヘイグとジャック・ヒルへのオマージュだし、実際シド・ヘイグを映画に出すのはクールじゃないかと思ったんだ。実際すごく良かっただろ? 彼はすごい役者だよ。シド・ヘイグは二十年前のサミュエル・L・ジャクソンさ。サム・ジャクソンと同じ資質を持ってたし、サムはシド・ヘイグに会えてすごく喜んでたぜ。ミラ(・ソルヴィーノ)にもいっぱいシド・ヘイグの映画を見せたんだけど、あいつ面白いこと言っててさ、シドは別にハンサムな男じゃない、だけどすごい自信を持ってて、その自信のおかげでセクシーに見えるんだ、ってさ。にしても日本でシド・ヘイグとジャック・ヒルの話ができるとはなあ。この映画に精神的父親ってのがいるとしたら、それはジャック・ヒルだよ。

−−最近『スウィッチブレード・シスターズ』のビデオを自分のレーベルから出したでしょ?

 ああ。あれは俺の一番好きなジャック・ヒル映画だ。ジャックは長いこと完全に忘れられてた。ジャックはフランシス・フォード・コッポラのルームメイトだったんだ、UCLAでね。二人はそろってロジャー・コーマンの下で働いた。コッポラもピーター・ボグダノビッチもジョナサン・デミも、みんなコーマンの下でエクスプロイテーション映画を作ってキャリアをはじめた。ジャックの悲劇は……彼のエクスプロイテーション映画が大ヒットしたことだ。『コフィ』はすさまじいヒットだった。その年最大級のヒット作だったんだ。『フォクシー・ブラウン』はスマッシュ・ヒットだった。『スゥインギング・チアリーダーズ』も大ヒット……てな具合でエクスプロイテーション映画がヒットすればするほど、実際には他の映画を作るチャンスが狭まっていったんだ。エクスプロイテーション映画の監督として有名になりすぎてしまったせいで。

−−あとさ、サミュエル・ジャクソンが見てたビデオがあるでしょ。ヘルムート・バーガーが出てる奴。

 あー、あれはイタリア映画で……なあ、ところでこれってエクスプロイテーション映画雑誌かなんかなの?

−−うへえ。いや雑誌は普通のとこなんだよ。ぼくがそういう人間なの。ひょっとして『サイコトロニック』かなんかの取材かと思った。

 (爆笑)だっておめえクソみたいによく知ってるじゃねえかよ。

 トモダチ、なれたかな? ところでくだんの映画は『マッド・ドッグ』というイタリアのマフィア映画だそうな。


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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com