『アルマゲドン』

(初出『エスクワイア』99年1月号)


 ハリウッドが駄目になったのはいつからなのか。実は、それはかなり正確にわかっている。1983年のいつか、『フラッシュダンス』が公開されたときだ。もちろん、そのときには誰も、それが破滅の始まりだなどとは思っていなかった。単に駄目な映画が一本公開されただけ。だが、事態はそんな甘っちょろいものではなかったのだ。

『フラッシュダンス』の大ヒットで、プロデューサーたちは気づいた。映画には脚本なんか必要ない。演出も無用だ。もちろん演技なんかなんの役にも立たない。大事なのは音楽と映像だけなのだ。流行のロックを流して、素早くテンポよく短いカットをつないでさえいれば、観客は物語がないことにも、ダンスが替え玉であることにも気づかないのだ。必要なのは派手な視覚効果と耳に心地よいヒット曲だけ。こうしていわゆる「MTV感覚」の映画が誕生した。『トップガン』『ビバリーヒルズ・コップ』『コン・エアー』。映画はどんどんエスカレートしてゆく。音楽が派手に鳴り響きさえすればいい。火薬が派手に、格好良く、騒々しく爆発しさえすればいい。

 この“プロデューサーたち”こそがハリウッド映画を今のような存在にしてしまった超本人である。ドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーこそ、ハリウッド映画のヒットの方程式を作りあげたのだ。いわく、メロディアスなテーマソングを流し(ついでにタイアップを取りつけて宣伝に活用)、観客が飽きないよう派手な爆発シーンを随所に入れる。あとは適当にスターを散りばめておけば客は満足してお帰りだ! かくしてハリウッドには大作アクション映画があふれかえった。シーンごとに派手でありさえすればいいので、シーン同士のつながりなど、ましてや話全体の整合性に関心を払う人など誰もいない。つまり、映画は見せ場をつなげただけのものになったのだ。ところで、見せ場をつなぎ合わせて音楽をかけたものをなんと呼ぶか? もちろん予告編である。しかしこの予告編は2時間半あり、本編は存在しないのだ。

 ありがたいことにドン・シンプソンはあの世に行ってしまったが、ブラッカイマーはまだハリウッドに居座っている。彼の最新作が全米興業収益一位となった『アルマゲドン』である。またしても、ブラッカイマーはヒットを飛ばした。もちろん、ここにはすべてが揃っている。エアロスミスのヒット曲。流星雨の直撃を受けて爆発炎上するスペースシャトル、NY、パリ。旧ソ連の宇宙基地、シャトル、小惑星上とあらゆる場所で炸裂する火薬。それにもちろん観客の好みに合わせて集めた色とりどりのスターがいる。アクション・スターのブルース・ウィリス、若者に人気のベン・アフレック、お色気はリヴ・タイラーが添え、うるさ型映画マニア用にスティーヴ・ブシェミまで取りそろえた。確かに、この映画にはほとんどすべてが揃っている。欠けているのはひとつだけだ−−それが魂だ、とは言いたくないのだが。


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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com