『スターシップ・トゥルーパーズ』

(初出『エスクワイア』98年6月号)


 アメリカを代表する、というよりはアメリカそのものを作っているハリウッドにあって、反アメリカを貫く存在には注目せずにはいられない。たとえばオリバー・ストーンだ。あるいはポール・バーホーベンもそんな存在である。オランダで問題作を連発して批評・興行双方で高い評価を得る。ハリウッドに招かれるとSFアクションを立て続けにヒットさせてトップ・ディレクターと目される。まさしくアメリカン・ドリームの王道である。

 にもかかわらず、そこでバーホーベンは『ショーガール』を作ってしまう。アメリカのもっとも醜悪な部分を凝集したような町ラスヴェガスを舞台にしたストリッパーのサクセス・ストーリーだ。アメリカ的と言えばこれほどアメリカ的なものもないが、しかしアメリカ人の見たい“アメリカ”ではないのも間違いない。『ショーガール』は史上最低の映画と呼ばれ、バーホーベンにもありとあらゆる罵声が浴びせられた。

 しかしその程度でくじけるバーホーベンではない。バーホーベンはあくまでもアメリカ人の顔に冷水を浴びせかける。今度は宇宙戦争だ。原作は出版時に「右翼的だ」と非難されたロバート・ハインラインの『宇宙の戦士』。血沸き肉踊る勇壮なSFX超大作ができる……と誰もが思った。監督がポール・バーホーベンでさえなかったなら。

 未来。地球は昆虫型の宇宙人“バグ”の侵略を受けている。女の子にいいところを見せようと軍隊に入隊した青年ジョニー・リコは鉄の訓練によって一人前の兵士となっていく。上辺のストーリーだけを追っていけば、確かに残虐非道な宇宙生物を退治する地球人兵士の英雄的活躍を描く戦争映画である。だが、実際に見て受ける印象はまるで違う。

 リコら機動歩兵たちは対空砲火をかいくぐって母艦から敵惑星に降下を敢行する。トンネルのような敵の巣穴を見つけると侵入して劣化ウラン弾をぶちこみ焼き払う。どう考えても直接戦闘能力では劣っていると思える相手になぜ地上戦闘を挑まなければならないのか、さっぱりわからない。そう、どう見てもこれは上陸急襲をかけ、ヴェトコンの穴に手榴弾を投げこむ海兵隊なのである。

 ハインラインの原作は彼の軍隊経験に基づいている。彼は軍隊経験を未来戦争のメタファーに使ったのだ。バーホーベンはその逆をやった。原作の「右翼性」を浮き彫りにするために、未来的なことなどかけらもない宇宙戦争を描いてみせたのである。ご丁寧に兵士は騎兵隊よろしくフィドルをひいて焚き火のまわりで踊るし、情報部はナチスそっくりの制服を着ている。もっともアメリカ的存在=合衆国海軍海兵隊はファシストの集まりに過ぎない、とバーホーベンは告発する。ヒロイズムのかけらもなく、ひたすら血が流れて死体の数が増えていくだけの戦闘シーンには大抵の人が辟易するだろう。だが、これはお前たちが望んでいるものなのだ、とバーホーベンは言う。これこそがアメリカなのだ、と。


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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com