『フィフス・エレメント』

(初出『エスクワイア』97年10月号)
 五千年に一度、地獄の釜の蓋がひらき、あらゆる生命を消滅させる邪悪な悪魔が宇宙にあらわれるという。それを食い止められるのは風土火水の四つの元素とそのすべてを統べる第五の元素(フィフス・エレメント)であった……
 かくも壮大な物語。そして豪華絢爛なスタッフ。セット・デザインにはフレンチ・コミックの第一人者メビウスが加わり、衣装には最近すっかり映画づいているジャン=ポール・ゴルチエ。まあ旬というわけではないが、誰からも文句の出ない陣容である。予算もけちけちせず、一気に百億円の大盤振る舞い。さて、ではその中身はと言うと。
 その第五の元素というのは実は美少女リールーなのだった。空から降ってきたリールーは{たまたま}ブルース・ウィリスが運転中のエア・タクシーに落ちてくる。さて、そこから宇宙を救うための大冒険がはじまる……はずなのだが。
 話のスケールの小ささと単純さには頭が痛くなる。宇宙を救うための冒険は、結局のところいくつかのグループの宝石争奪戦でしかないし、ギャグのレベルの低さと言ったら泣けてくる。天真爛漫なリールーが人前でもかまわずリールーが着替えをするので、みな顔を赤らめて後ろを向く、というくりかえしギャグなど、笑うといっても失笑だけだ。豪華絢爛なセットの中でくりひろげられる小学生レベルの物語。いつのまにか、映画はここまで単純なものになってしまった。
 SFの黄金時代は十二歳だという。しかし、だからって十二歳の子供しか面白がれない映画を作ってどうするつもりだ。だけど、残念ながらこれはたまさかの出来事ではない。バットマン・シリーズの低年齢化には歯止めがかからず、とうとう『バットマン&ロビン』ではバットマン・チームがきゃあきゃあじゃれあうだけの映画になってしまった。『ロスト・ワールド』はストーリーもなく、ひたすら人間が恐竜に食われる姿を描くのみだ。
 ハリウッドはひたすらリアルな3DサウンドとデジタルSFXで映画の見せ物化を進めてきた。それにもっとも適した入れ物がSF映画だったのだ。おかげで、ここ数年の大作と言われる映画はすべてSFだった。だが、その代償としてSF映画は何を失ったのか?
 その答えが『フィフス・エレメント』である。SFは大人の鑑賞に堪えるものではなくなってしまった。そういう大作のスタッフにフランス人が選ばれたというのは興味深い。SF映画を作るのには英語など喋れなくてもいいのだ。派手な視覚効果を使いこなせればそれでよし。そして、その点ではフランス人に一日の長がある。暗黒映画がフランスでフィルム・ノワールとなったように、SF映画はフランスでお伽話として再生されるのだろう。ちなみに、『エイリアン4』の監督は『ロスト・チルドレン』のジュネ&キャロだそうである。

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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com