『ザ・エージェント』

(初出『エスクワイア』97年6月号)

『ザ・プレイヤー』の中で、唯一本当に皮肉をぶつけているのはエージェントに対してだ、とロバート・アルトマンは言う。なぜなら「『ザ・プレイヤー』にはエージェントが出てこないからだ」
「名前を出さないのは侮辱に等しい」と言われるほどに、ハリウッドにおいてエージェントの存在は顕著である。ただの契約代理人だと思っては大まちがい。エージェントはCMや企画にクライアントを売りこむだけではない。自分のクライアントの意思を汲んで企画を練ることもする。クライアントがヒット作に出れば、それだけエージェントの取り分も増える勘定である。
 さらに、最近では企画のパッケージングというものまである。自分の抱えるクライアントで監督、脚本、主演俳優のパッケージを作り、製作会社に売りこむのだ。製作サイドは金を出すだけである。こうなれば有力クライアントを数多く抱えるエージェントはとてつもなく有利だ。CAAやウィリアム・モリスといった大手エージェンシーは、場合によってはメジャー会社よりも強い力を持つ。有力エージェンシーの重役が毎年公表される「ハリウッドの有力者」リストに名をつらね、メジャー会社の経営者として乞われるのはそれゆえである。
 トム・クルーズが『ザ・エージェント』で扮するのはハリウッドの芸能エージェントではない。スポーツ選手を専門に扱うスポーツ・エージェントである。とはいえ、やることは映画界のエージェントと変わりない。いい働き口を探してクライアントを売りこみ、CM契約を企画する。クライアントがスターになってくれれば、エージェントも大儲けというわけ。ただし、トム・クルーズ演じるジェリー・マグワイアはちょっと違う。大手スポーツ・エージェンシーに勤めるマグワイアは、クライアントのことを親身に考えるエージェントだ。彼は金儲け主義を批判して会社を追われる。しかしそれでも彼は諦めない。夢を信じてクライアント(アメフト選手)と自分(と恋人)に幸せをもたらすために戦いつづけるのだ!
 愛と正義のエージェント! この映画がハリウッド雀の大好評を博し、アカデミー賞にノミネートされたのも不思議ではない。エージェントがヒーローになる映画を批判するのは難しいだろう。ましてや「非現実的だ」などとはなかなか言えまい。
 電通が嘘をつかない広告代理店のCMを作ると言えば、その気持ち悪さはわかってもらえるだろうか。エージェントの企画する巨大映画の中でエージェントが活躍し、それをエージェントに支援されるハリウッド人が応援する。世はなべてこともなし。今日もエージェントはクライアントのために奮闘している。もちろん、四パーセントの手数料は持っていくわけだが。
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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com