『インデペンデンス・デイ』
(初出『エスクワイア』96年12月号)
かつて宇宙人はアカであった。50年代のことである。
50年代、次から次へと地球を襲ってきたBEM(巨大な目の怪物)どもは、みな一様に赤い色をしていた。なぜかといえば、それは奴らがアカだからである……などと言っていると、まるで出来の悪いギャグのようだが、実際そうなんだからしょうがない。冷戦時代、大量に製作された侵略映画からは、メタファーとしての共産主義の恐怖がはっきり読みとれる。だから宇宙人はつねに個人の意志を持たない、集団社会生物である。恐ろしいほどの知性と科学力で人類を圧倒するが、ロボット化しているので緊急事態への対処能力がない。最後にはたった一人の機知の前に敗れ去るのである。個人の力は硬直化した集団に勝利する! 自由万歳!
このテーゼは、80年代にもっと直裁なかたちでくりかえされた。TVシリーズ『アメリカ』は、近未来、ソ連に支配された米国が舞台である。圧政を敷く全体主義軍に対し、米国人たちは自発的なゲリラ戦を挑む。神出鬼没なゲリラは、やがて圧倒的戦力を誇るソ連軍を打ち破り、独立を達成する。自由万……
『アメリカ』や『若き勇者たち』といった作品はあきらかにかつての侵略物SFの再話である。もはや宇宙人が地球を襲いに来ることはない、とわかってしまったとき、侵略ものは力を失った。もう宇宙人に共産主義の汚名を着せることはできない。しかたないので、メタファーも糞もなしに、共産主義者に支配された暗黒の未来からの解放を訴えたのだ。それもまあよし。だがソ連が崩壊した今となっては、共産主義者を悪の帝国として描くほうがよっぽどSFだろう。では、どうするか?
その回答が『インデペンデンス・デイ』だ。
ある日、宇宙の彼方から巨大円盤に乗った宇宙人が襲来する。圧倒的な科学力を武器に、彼らは地球の主要都市を破壊、人類は絶滅の淵に立つ。だが、そこでアメリカの秘密基地に集まった一握りのグループが、絶望的な反攻を開始する。
思わず苦笑がこぼれるほど、見事に侵略もののフォーマットを踏襲している。宇宙人は集合知性で、個々の意志を持たない存在だ。彼らを打ち破るのは落ちこぼれ科学者やアル中の元パイロットといった連中。はぐれ者軍団があっと驚く奇襲によって……
だが、これはなんのメタファーなのか? 敵は共産主義者ではない。そんな時代は終わってしまった。もはや、宇宙人はそういうものに決まっているから、そうなのだ、としか言えまい。なぜ宇宙人は人間を攻撃するのか? それは奴らが宇宙人だからだ! 一事が万事その調子。この映画はなんの根拠もなく、ただかつての侵略ものの恐怖をたどりなおしている(したがって、宇宙人はちっとも恐くない)。あるのはただ意志のみ。「独立する」という意志のみだ。
アメリカは圧政と戦う個人でなければならない。それがアメリカのレーゾン・デトゥールであり、多民族国家を融合するイデアだった。だが、圧政がなくなったらどうするのか? 自分たちが世界唯一、最強の力になってしまったら? 考え方を変えたくないなら敵を作りだすしかないだろう。覆されることが最初から決まっている圧政をでっちあげるのだ。そうまでしないとアイデンティティが維持できないのだろうか? これはもはや病気としか言いようがない。『ID4』はその最新の症例報告である。
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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com