『封印された十三宮占星術』ジェイムズ・ヴォー(ジョン・スラデック)
"Arachne Rising" James Vogh

ダミー表紙デザイン:高橋ヨシキ


 変な作家というだけなら世の中にいくらでもいるけれど、多くは無自覚に変な存在である。意識して変なことをやろうとするのは本当に大変なのだ。まず第一に変なことを思いつかねばならず、加えてそれを最後までやり通す根性がなければならない。中途半端に思いつきだけで人と違ったことをやってみても、たいていは醜くく不格好な結果に終わってやめときゃいいのに、と言われることになる。そんな中、ぼくが推奨する変な作家ナンバー1がジョン・スラデックである。残念ながら二〇〇〇年三月にひっそりと死亡したスラデックはSF作家(単独長編の翻訳は『遊星よりの昆虫軍X』一冊のみ)でありながらミステリの方で有名で(『見えないグリーン』は時代遅れの本格推理として日本では人気だ)、アメリカ人でありながらすっかりイギリス作家として遇されている奇妙な存在である。その彼にしてもっとも奇妙な本がこれ、『封印された十三宮占星術』である。

 SF作家が変名でオカルト本やポルノ小説を書くというのは珍しいことではない。海の向こうでもSFが儲からないことに変わりはないのだ。珍しいのはこれが徹頭徹尾本気で書かれた本だということだろう。そもそもスラデックは超常現象やオカルトの研究家である。準備に三年かけたという大作"New Apocrypha"(1973)では超能力からLSD神話まで世にはびこる詐欺や迷信を一刀両断する本だった。マイクル・ムアコック(60年代当時のイギリス貧乏SF作家たちはみなムアコックの施しを受けていた)から、オカルト批判本を書いて手早く儲けないか、と持ちかけられてはじめた仕事なのだが、いざ研究を始めるとすっかりハマって三年間かかりっきり。結局さらに貧乏になってしまったという曰くつきの仕事なのである。ここまで来たらあとには引けない。毒喰らわば皿までの勢いで、研究成果をすべてぶち込んで究極の新占星術本を書きあげてしまったのだ。

 十三宮占星術と言っても昨今流行のアレとは違う。これは古代ケルト人がローマに征服される以前に築きあげていた謎の古代文明に由来する由緒正しいものなのだ。ケルト人は月の満ち欠けで年を区切る太陰暦を用いていた。これだとひと月は二十八日、一年は十三ヶ月になる。ローマ人はバビロニアから太陽暦を受け継いだので十二宮の占星術になったのだが、ではケルト人には占星術はなかったのだろうか? ケルト式占星術の痕跡はあちこちに見られる。女神アテナとのタペストリー勝負でアラクネは神々の愚行を描いた十三枚のタペストリーを織りあげるが、十二枚はそれぞれ黄道十二宮に対応する。ならば十三枚目は? 勝負に勝ったアラクネはアテナの怒りを買って蜘蛛に変えられる。あるいはアラクネは自分自身をタペストリーに織りこんだのだろうか? そう考えれば十三枚のタペストリーの謎も解けるのでは?

 ここで注目すべきはカペラ、御者座の一等星である。ケルト人のドルイド僧はこの星に特別な注意を払っていたことが知られている。一方で御者座と言えばミノタウロスを退治した英雄テセウスの息子、近親相姦の嫌疑を受けて自殺したヒッポリュトスが天に掲げられたものである。ミノタウロスは人の体に牛の頭を持つ怪物で、迷宮に閉じこめられているが、テセウスはミノス王の娘アリアドネから渡された糸玉を繰りだして迷宮を脱出する。アリアドネは糸をつむぐもの、すなわち蜘蛛である。すべては蜘蛛を指ししめしているのだ。そして、その蜘蛛の場所もまたこの神話から導きだすことができる。テセウスは双子の片割れであり、ミノタウロスは半分だけの雄牛だと言える。つまり geMINi(双子座)+TAURus(牡牛座)=MIN(O)TAURなのであり、双子座と牡羊座のあいだにミノタウロス、蜘蛛の怪物が潜むわけである。黄道宮を見れば、おお、そこにはまさに御者座があるではないか。これこそがかつて天空を支配していたが、その危険性を知る者によって封印されて黄道宮から追放された蜘蛛座なのである。

 ジョン・スラデックは駄洒落と言葉遊びの専門家である。駄洒落を元にして長編を一本書くなんて当たり前なのだ。そしてオカルトとは無関係なもの同士のあいだに秘されたつながりを見いだすことである。ならば駄洒落に通じるスラデックはオカルトのプロでもあるということになる。スラデックはどんなオカルト本よりも豊富な傍証を引いて(脚注と引用の量は印象的である)、ありえざる結論を証明していく。ふたつの事実のあいだを論理のアクロバットでつないでいく作業は一種パズルを解く作業に近い。そしてスラデックはパズルのマニアでもある。頼まれなくても、そこに謎があるとつい解いてしまう性癖を持っている。たとえばP・K・ディックの『テレポートされざる者(ライズ民間警察機構)』で数ページ原稿欠落があったときには、その中身を推測して埋めるなんていうことまでやっている。パズル好き、駄洒落マニア、オカルト研究家のスラデックにとっては、すべてを詰めこめる自分にいちばんふさわしい形式だったのかもしれない。

 さて、伝統的な占星術によれば、黄道宮と惑星にはそれぞれ性格がある。ホロスコープとは誕生した瞬間に黄道宮のそれぞれどこに惑星が位置しているかを示すものであり、それによってその人の性格が定められる。ならば次に知るべきは蜘蛛座がどんな性格を司るかという点だ。それは蜘蛛座が封印された理由とも密接にかかわっている。そう、蜘蛛座は超常能力を支配する星座なのである。A・R・ラムスデンは心霊能力者の生年月日を調べ、その誕生日が牡牛座と双子座にピークを持つことを発見した。だが、これはもちろんラムスデンが蜘蛛座の存在を知らなかったからである。蜘蛛座(5月16日から6月13日まで)を計算に入れれば、ピークはここに集中する。蜘蛛座生まれの有名人には妖精写真を発見することになるコナン・ドイル、催眠術の創始者アントン・メスマー、オランダの超能力探偵ペーター・フルコス、さらにJFKとマリリン・モンローが挙げられる。さらに一九二九年生まれのゴシック小説作家カッサンドラ・ケイもさまざまな機会に超常能力を発揮したことが知られている。

 太陽以外の星の影響も同様にして調べられる。月が蜘蛛座にあるホロスコープの持ち主にはエドガー・ケイシーやチャールズ・フォートがいる。ところで、ここまでに出てくるべきなのにどこにも出てこない人がいる。今世紀最大の超能力者ユリ・ゲラーである。ユリ・ゲラーのホロスコープを検討すると、ゲラーは蜘蛛座に上昇宮を持つことが判明した。そう、これこそがもっとも重要な……っていつの間にか推測と結論が逆になってしまうのだが、ただの仮定がページをめくった途端にすっかり事実として扱われてしまうのはオカルト本の醍醐味である。心霊ホロスコープこと十三宮ホロスコープの書き方まで説明されており、立派なオカルト本として出版できるだろう。どうせこの本の読者はジョン・スラデックのそれ以外の活動なんか全然知らないだろうから、ベストセラーになったあとからその当人はオカルトなんかまるで信じてないただのいたずら者だと暴露してやればひと粒で二度美味しいマッチポンプのできあがりってどうかしら?


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