チャールズ・ホイットマン Charles Whitman
1966年8月1日は晴れていた。暑い日になりそうだ。チャールズ・ホイットマンは重たい荷物を引いて、テキサス・タワーに向かっていた。テキサス大学の中心にある高さ90メートルのタワーからは、オースチン市が一望できる。ホイットマンは最上階の展望台をめざしていた。受付階でエレベーターを降りると、二階上まで階段を上がる。もう、彼を邪魔する者は誰もいない。
ホイットマンは雑嚢の中身を取りだした。望遠照準つき6ミリライフル、レミントンの35口径ポンプ・アクション・ライフル、30口径の軍用カービン銃、9ミリルガー拳銃、357マグナム、銃身を切りつめた12口径のショットガン、それにボウイ・ナイフ。お腹がすくといけないから、サンドイッチとコーヒーも用意していた。12時の時報がなる少し前、ホイットマンは撃ちはじめた。
妊娠中の女性が撃たれ、くずおれた。彼女は助かったが、胎児は頭を撃ち抜かれていた。助けようと駆け寄った青年が撃たれ、即死した。400メートル近く離れたキャンパスのはずれにある書店で、本を立ち読みしていた学生が撃たれた。自転車で走っていた学生が撃たれた。500メートル先で柱の陰に体を隠していた警官が撃ち殺された。狙撃兵を乗せた軽飛行機が近づいたが、ホイットマンはカービン銃で撃退した。
90分後、地下廃水路を通ってタワーに潜入した3人の警官に射殺されるまでに、ホイットマンは11人(胎児を含む)を撃ち殺し、30人に怪我を負わせた。運悪く展望台に居合わせた二人の観光客と受付嬢、前日の晩に殺していた24歳の妻と母親を加えると、犠牲者は全部で16人にのぼった。
晴れた青空から銃弾が降ってくる。誰もが一度くらいは抱く恐れが、その日テキサス大学にいた人間にとっては現実になった(杞の人も、実はそれほど愚かではなかったわけだ)。まさに神話が現実になった瞬間だった。塔の上に陣取り、無差別に撃ちまくる狙撃手。このイメージはあまりに強烈で、多くの映画や小説に借用されることになった。有名なものとしては、マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーのマルティン・ベック・シリーズ『唾棄すべき男』がある。こちらの狙撃手は無差別攻撃はしない(殺すのは警官だけ)し、ヘリコプターは撃ち落としてしまう。だが、最後の特攻隊に民間人が加わっている(廃水路の案内ができる人間が必要だった)ところまで、ホイットマン事件そのものだ。
ホイットマンは海兵隊出身で、彼の射撃は恐ろしく正確だった。キューブリック監督の映画『フルメタル・ジャケット』(グスタフ・ハスフォード)では、鬼軍曹が新兵たちに向かって説教をする。「チャールズ・ホイットマンは500ヤードの距離で柱の陰の男を撃ち抜いた。あいつはどこで射撃を習った? もちろん海兵隊だ!」”殺人機械”ホイットマンはある意味では理想の兵士だったのかもしれない。
●ホイットマンの正確な射撃(42K)
●決死隊の成果(56K)
Back to Index Killer Top 10
Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com