山形温泉日記(映画祭付き)

◎今月のお仕事 コリン・マッケンジー物語』(デレク・スミシー パンドラ)発売中。特殊翻訳稼業の神髄を見せてやるぜ。


10/16(土)
 ところで『シュリ』のプレスなんだけど、中に粗筋が載っている。これが150字のパターン、200字のパターン、250字のパターンと三つあるのだ。これはつまり、宣伝部に電話してきて「ねえ、この映画の見所150字で教えてちょうだい」とか言う映画ライター対策ってことなんだが(本当にいるんだよ、そういうのが)、ここまでしなくちゃいけないのか? 映画ライターってそんな馬鹿ばかりなのか? 実はそうなんです。

 ロッキング・オンからまた『ラスベガス'71』送ってくる(2冊目)。なんやろね、これ。即刻古本屋行き決定。


10/17(日)
 オリンピック予選VSタイU22 前半は思わず雑誌を読みだしてしまうような凡戦だったが、平瀬が入っていきなりダイナミックに動くようになり、あとは楽勝。どうもタイのDFは直線的な動きにはついてくるんだが、一度マークをはずすともうついてこられない感じだった。だから、柳沢入れといた方が良かったね(こだわっている)。
 稲本くん絶好調だったが、なんせショルダーチャージをするとタイの選手がみんな吹っ飛んでしまうので、正当なチャージでもなんでも片っ端からファールにされてしまっていた。まあ余裕の試合だから良かったようなものの、PKも2本くらい流されたような。
10/18(月)
 九段下の成山画廊に出かける。なんか、明治時代の奇形写真だかなんだかの展示があるってことで。写真自体は手札くらいのちっちゃなもんでしたが、なかなかの逸品であった。魚の怪物みたいになった奴がちょっと迫力だったね。

 その後4時半よりメンズ・クラブのO、町山と打ち合わせ。なんか来年1月号からリニューアルしてFBBで映画欄をやってくれ、みたいな話になったのであった。しかしメンクラ(笑)。どうも遠い世界だなあ。まあ何をやってもいい、ということなので。それなら。
 その後町山と一緒にシュラバの秘宝編集部を訪問。しばらくうだうだし、掃除を手伝ったりした(笑)のち、編集部を訪れていたターヤンを加えて秘宝勢で飲みに行く。今日の議題は男の器、つーか男として誰がいちばんかっちょいいか。で、結論はやはり高橋ヨシキくんにかなう奴はいないだろうということに(笑)。「ヨシキ打倒!」とか吠える町山。秘宝最強の男を潰してどうする。「いや、オレはここで雇われて〈プレミア〉の編集長になってな、アメリカからすごいスイングの早い黒人をスカウトしてくるわけだよ、そんでもって……」勝手にやってなさい!


10/19(火)
 東京から新幹線で2時間、山形新幹線(つうか奥羽線)米沢駅からバスで40分の白布温泉。築200年の茅葺き家の温泉宿からPHSでモバイル、なのである。サイバーな感じだ。ちなみに別館の大浴場は中でレースもできる全長三十三メートルの通称オリンピック風呂。ここで新記録を出すとロビーに展示されているオリンピック聖火台に名前を刻んでもらえるのである(信じないように)。
 なんにせよ、200年前の建物というのはさすがに気持ちいい。宿の仲居は「お若い方はベッドの方がよろしいでしょうが……」とか言ってましたが、何を言ってんのやら。
10/20(水)
 朝早くバスで白布温泉を立ち、米沢から新幹線で山形へ。今日から山形国際ドキュメンタリー映画祭である。事務局でプレス・パスを受け取りがてら雑談してたら、なんかJRの国労イジメを扱ったビデオの上映に関してトラブルがあるらしい、という。のでさっそくそこへ出かける(野次馬度120パーセント)。でも、何も事件が起きなくって残念。以下、山形でやったことは見た映画に集約されるので、注目作のみ箇条書きで

『死神博士の栄光と没落』(エロール・モリス) コンペ作品。フレッド・ロイヒターはアメリカのいくつかの州で死刑執行器具(電気椅子など)の設計に携わった技師なのだが、歴史修正主義者エルンスト・ツンデルの依頼を受けてアウシュヴィッツのガス室はなかったと「証明」して有名になる。日本でも、彼の主張を真に受けたバカのせいで雑誌が一冊潰れたおかげでちょこっと有名になった。映画の中で言われる「犯罪的なまでに単純な男」というセリフが過不足なくその実像を言い当てている。
 それでも、「あんな連中の主張を取り上げるだけでも犯罪だ」とか騒ぎ立てるユダヤ人がいて、アメリカでは結構な騒ぎになったらしい。ユダヤ人もそういう対応するからねえ……今回、ぼくの一押し。


10/21(木)

『瘋狂英語』(張元) コンペ作品。今回、コンペ中ではもっとも前評判の高かった作品である。奇怪なメソッドにのっとって、踊り、怒鳴りながら英語を教える中国人の英語教師のお話。万里の長城で紅衛兵相手に教えたりする。そのおっさんは確かに面白いのだが、おっさんが喋りたおす内容以上には突っ込めないのがどうもなあ。

『アンダーグラウンド・オーケストラ』(エディ・ホニグマン) コンペ作品。パリのストリート・ミュージシャンに人生を語らせる。音楽はいいんだが、突っ込み不足(そもそも地下鉄構内で撮影できなかった、っていうのがすべてなような気がする)。あと、軍政の弾圧を受けて亡命したアルゼンチン人ピアニストの話が凄すぎてバランスが狂ってしまっている。たしかに凄い話だし、演奏もすばらしいんで、入れたくなる気持ちもわかるんだが、そもそもこの人ストリート・ミュージシャンじゃないよ。

『沈んだ財宝』(楊家雲) 日清戦争で沈んだ清の軍艦を引き揚げようとするプロジェクトを扱った映画なんだが、モンティ・パイソンばりの爆笑コメディだった。作っている側にコメディの自覚があるかどうかはさだかでないが。会議を開くと実際にどうやるかってよりも決議文の文案をめぐって喧々囂々の議論だし、いざ海に出るとソナーを沈めるためのロープを忘れたとか言って、海面上にソナーをぶらさげてる! やがて軍艦を観光の目玉にしようと考えた市議会が大募金運動を提案し、幼稚園児がマス・ゲームして市民が競って募金する大騒動になる。で、結局海軍まで乗り出した調査の結果わかったことは、旗艦が沈んでいるのは二ヶ所のどちらかで、その場所を決定するには幅30メートル、長さ120メートルにわたって4メートルの深さの泥を浚渫しないといけない、これ本当にやるの? というところで記者会見をやって「彼ら英雄たちはきっとやってくれるでしょう!」でおしまい。そんなんありか?


10/22(金)

『不毛な人生』(ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス) 審査員ドス・サントスの63年作品。ブラジル版『糧なき大地』というか『怒りの葡萄』というか、そういう映画だ。強烈すぎる貧乏描写に唖然。あと、犬の演技が凄かった。本当に殺してないだろうな。

 ま、こんなもんかな。いるあいだは「あー、こんな早く帰るのもったいないないなー。もう2、3日いられないかなー」とか思ってたが、帰ったとたんFAXで来ている校正の山。仕事の現実に押しつぶされてトホホホ。


10/23(土)
『路上の弁護士』(ジョン・グリシャム 白石朗訳 新潮社)いただく。ありがとうございます。あと『バットマン/ヘルボーイ/スターマン』(マイク・ミニョーラ 小学館プロダクション)も(うれしい)。
10/24(日)
 東長寺地下のP3 art and environmentに詩人ロバート・ラックスをフィーチャーしたインスタレーションを見に出かける。P3が閉館になるというので、やはり閉める前に一度挨拶に行っとかなきゃ、と思ったんだよね。実はここはうちら夫婦が結婚式を挙げた場所である。ガメラ着たり、ワイルド・アット・ハートな格好したりして遊んでたら「パーティやるっていうから貸したのに、あんたら自分たちで喜んでるだけじゃないですか」と怒られたものであった。はっは。
 ちなみにこの巨大スペースはいきなり位牌が飾られるチョー抹香臭い空間になってしまうらしい。リストラか。
10/25(月)
 1時からFOXで『ファイト・クラブ』。デヴィッド・フィンチャー/ブラピ/エドワード・ノートン。生きている実感を取り戻すため、秘密クラブで殴り合いする男たちの話。いやあすごいよ。フィンチャーではじめて感心した、つうか笑ったな。いろいろ言いたいことはあるんだが、どうせ全部原稿にするだろうからいいだろう。要するに、ぼくらはどうしたら男になれるのかよくわからないから、とりあえずピザを投げてみた、ということである。
 はじまる前に『アンナと王様』の予告編を見せられたが、チョウ・ユンファが銃を撃ちまくっていたんで笑った。

 茶店でちょっとワープロを叩き、夜、キネカ大森へ。アルジェント特集のトークショー(お相手は荒井倫太郎)。ネタを用意していったのはいいんだけど、時間配分をまちがえてとばしすぎ、後半喋ることがなくなって困った(笑)。このトークの模様は荒井氏が作っているホラー専門誌〈SCARED〉の第二号(来年2月とかそのくらいに発売)に掲載されるはず、だそうです。

 なぜか山形浩生(大森在住)が来ていたので、終わってからキネカ支配人Hを加えて妻と4人で飲みに行く。クルーグマンのインフレ説について疑問点をただしたり。オレ、どうもわざわざインフレ作ってまで逃れなければならないほど、不景気が悪いもんだって実感が持てないんだよね。こんだけ社会インフラが充実した国なら、少々のデフレなんかびくともしないと思うんだけどなあ。杉田玄白プロジェクトに参加を確約するも、ものがものだけにいつになるかちっとも先が見えん。とりあえず手を動かすかね。


10/26(火)
 夜、ビッグコミックスピリッツのYが来る。実は宝島の同期なんだが、転職して大小学館様の編集者になったのである。たぶん給料倍増、って感じ? ヴィンセント・ギャロのインタビューをしてくれとかそういう打ち合わせなんだが、「××なんか使うのやめてオレに書かせろ」とかとりあえず要求しておく(笑)。
 久しぶりだったもんで、気がつくと2時間ぶっつづけで喋っていた。こんなことなら飲み屋にでも行っておけば。
10/27(水)
 午後、ものすごい雨になる。池袋コミカレの授業、三回目(最終回)。ただし、今回は會津信吾をゲストで呼んであるので楽だ。とりあえず少し前に会い、打ち合わせ。依頼のあったドン・ドラーの『ナイトビースト』のビデオをプレゼントしたら、かわりに『Blood Massacre』のビデオをくれた。嬉しい。のか? 時間を見ながら適当に突っこんで、お得意の明治、大正時代の殺人事件について語っていただく。野口男三郎事件とか、龍野六人殺しとかそういうのをだらだらーっといい塩梅に。

 終わったあと、女の子を連れて飲みに行く。我が世の春、つーか(笑)。

『時代の体温−−陰核・混沌の隣人』(根本敬+湯浅学 水声社)拝領。しかしこの本をどうせえと。


10/28(木)
 1時、マガジンハウスへ。『ダ・カーポ』で中野貴雄監督と「六〇年代ビンテージ女優対談」とかいうものをするのだ。なんか適当な話を延々として、女優10人あげたりとかして。中野監督は話が女優でなくて燃えるシチュエーションの話だったりする。あと女優を挙げるはずが映画の話だとか「モニカ・ヴィッティ? 『唇からナイフ』しか見てないですけどね」とか。

 終わってから東映に急ぎ、三池祟史監督の本年度最大の問題作と言われる『Dead Or Alive』見るっ!
 見たっ!
 しゅるるるるーっ(力の抜ける音)。オレがいちばんたまらんかったのはトキだなあ、トキ。あと哀川翔がラーメン検視するとこ。ともかくこれは大森望が見てキネ旬ベスト10の一位にするためにある映画なんだから、見るように(指名)。大森がキネ旬ベスト10に投票する意味なんてそのくらいしかないだろう。もうこうなったら『サラ金』も見るかあ。

 さらにGAGAにまわって字幕の入った『(名前伏しとく必要あるのかな?)』見る。しかしあまりによく知りすぎた世界なんで、逆になんの感想もないのであった。


10/29(金)
 ものすごく強烈な鬱に襲われ、やる気のない一日。たったひとつあった打ち合わせも不機嫌にこなす。すみませんでした(ってここで謝ってもしょうがないよ)。
10/30(土)
 竹柴のインターコンチに出かけ、ヴィンセント・ギャロのインタビュー。午後いちの取材だったんだけど、食事に行ったギャロが帰ってこなーい(笑)。結局1時間くらい遅れた。おかげでカメラマンやらテレビ局やら狭い部屋にたまるたまる。眠がっていたはずのギャロくんは急に機嫌良くなってべらべらべらべら美味しい話を披露してくれた。“バッファローのジンクス”の話とか、はじめて聞いた気がする(とはいえ、別に真面目にインタビューおっかけてるわけじゃないんで他でも出てるのかもしれない)。それにしても最後にいきなり「オレがつまらない映画を作るダメ監督になったら殺してくれー」とか叫んでいたのには笑った。なんか今朝方ベサニー(奥さん)が電話してこなかったとかで「オレは日本まで来て仕事してんのにオマエは(オレの金を使うだけ使って)電話すらできねえのか!」とかって電話して(笑)怒っていたらしい。どこまでもギャロである。写真撮影中にいきなり「なあ、今日オレに電話なかった?」とか聞いてたりして。
 終わったあと、スピリッツのYらとお茶する。

 五反田で不祝儀。いや、untimely deathというのはどうしようもなく辛いものだ。

 9時から渋谷で東京国際映画祭の上映でロベール・ブレッソンの『湖のランスロー』見る。ムチャクチャおもしろかった。いきなりスプラッタだし。アクション・シーンとか、まるっきり単調なくせに目が離せない。まるで麻薬のようだ。


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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com