山形ドキュメンタリー映画祭日記


10/11(土)
 こうやって日記を発表することの問題点は、「おいうちの原稿はどうなってんだ」に対して「あ、すいません今やってます」が使えなくなってしまうことだ。まあ原稿を書いてたとか映画見てたとかならまだいいんだが、ことが旅行となるとさ、やっぱさあ。

 そういうわけなんで朝8時起床して9時の新幹線で山形に向かう。さよーならみなさん。きっと帰ってきて残りの原稿は片づけます。まあそのうちね。山形に来るのは二年ぶり二度目。こないだのときはコンペに『クラム』『フープ・ドリームス』『アインシュタインズ・ブレイン』と一般公開にたえる映画がずらりと並んで大層派手だったのだが、今年はそれに比べるとだいぶ地味。そのせいか東京から行くお友達も例年より少ないみたいである。

 午後着いてすかさず映画を見はじめる。まず『隣人愛』は日本占領下の朝鮮を舞台に、朝鮮人と日本人(内地人)のあいだのうるわしき隣人愛を訴える宣伝映画。一旗揚げようと半島まで来た内地人夫婦がのたれ死んで一粒種を残すんだが、そいつを愛他精神に満ち満ちた朝鮮人が育てあげる。不幸のてんこもりで、なんのカタルシスもないまま終わってしまう。

 『平原遊撃隊』は戦後すぐに作られた中国の抗日アクション映画。完全にB級なところがたまらない。日本占領軍とゲリラ部隊との知恵比べ(ゲリラ部隊は、なんとかして日本軍本隊を待ち伏せ地点に引っぱり出そうとする)になるのだが、日本軍が愚鈍なだけじゃなくってちゃんとおたがい相手の意図を読みあってチェスをやるのだ。あとサイコーなのが日本軍の手先に向かって「思想教育」するところ。「いいか。もうソ連は反攻を開始してヒトラーの命運も尽きた。すぐに八路軍の反撃もはじまるんだぞ。いつまでも日本についててもいいことないぞ」それが思想教育かい! 中国人ってなんて素敵なんでしょう。

 夜、7時からコンペの作品で『アムステルダム、グローバル・ヴィレッジ』.4時間もありやがる。そしてものすごく退屈。アムスを舞台にしたドキュメンタリーで女の裸が2回しか出てこないなんて、そんなのねーよなー。


10/12(日)
 朝10時から映画。『母がクリスマスに帰るとき…』。ギリシャで働く出稼ぎスリランカ人家政婦が8年ぶりに帰郷する。2歳のときに別れたきりの子供に再会したりするわけだが……マジメ。そして退屈。ドキュメンタリーと聞いてふつう想像するような作品。まー他に見るもんがなかったんすよー。

 『レベル5』クリス・マルケル沖縄戦を撮る。沖縄戦は非戦闘員人口の3分の1が死亡したという点で他に類を見ないものだったのだそうだ。確かに、言われてみれば。それが沖縄戦の情報を記録したCDROMを見る女優のモノローグというかたちで綴られる。オヤジの理解するサイバーパンクって感じで、ダサダサ。なんだけどあのくらいダサイとかえって愛すべきもののような気がしてくるから不思議だ。女優がすげえ大女でちょっとフェリーニ系なのがちょっと不思議。マルケルってあんな好みだったっけ?

 ところで映画祭に来てるからって映画ばかり見ているとバカになる。というわけですかさず温泉旅行に行くことに決めてレッツゴー。目的地は成瀬の映画でおなじみ銀山温泉、というところがちょと映画祭ツアーぽいね。山形からはバス2時間。着いて風呂入って飯食って風呂入って寝る。


10/13(月)
 木造三階建ての温泉宿が立ち並ぶ銀山温泉はかつて栄えた場所らしいが、なんせまわりに娯楽が何もない(もはやヌード劇場も射的場もないのだ)ので風呂に入る以外やることないのだ。というわけで朝9時のバスで大石田に出て昼前には山形に戻ってくる。なんだまだ映画見れるじゃーん。なので『マザー・ダオ』20年代の記録映像をつなげてオランダのインドネシアにおける植民地経営のありさまを告発するもの。ナレーションはなく、インドネシア語の歌だけが流れる。リリカルで残酷。ところで、この映画はとんだことで有名になってしまった。劇中、現地人労働者の生活を伝えるところで強制的にシャワーを浴びさせられるシーンがあるのだが、そこでちんぽこが見えているから、と税関にカットされてしまったのである。当然のことながら監督は怒り狂い、強力にアピールしている。それにしても、昔から土人と収容所では見えてもいいことになっていたんじゃなかったのか? ちなみにこの映画中でも、人類学者の記録映像で土人のちんぽこが見えてます。なんでこっちは消さないのだろうか?? 役人って本当に謎に満ちた人種だねえ。

 最後の一本は『香港情懐/念 如昔』スタンリー・クァンが撮った香港返還ドキュメンタリーである。中身は整理されておらず、とっちらかって、ナレーションも聞き取りにくかったりする失敗作だが、胸に響くところ、多々(ちなみにこの後のアン・ホイの作品はちゃんと作ってあるんだけどぜんぜん面白くなくて、早々に出てきてしまいました)。あらゆるものの裏に絶望感を読みとってしまう深い諦念。要するに、そういう部分に反応してるだけなんですね、ぼくは。

 5時前の新幹線に乗り、帰宅。なんか三和出版からひみつのビデオが届いている。あーこれも見なきゃー。仕事しなきゃー。ひー。とりあえず『現代詩手帖』のバロウズ翻訳。


10/14(火)
 5時、外苑前の『エレキング』編集部に出かけて中原(VOG)と対談。『エレキング』の中原くんの連載インタビュー・ページらしい。一応ジョン・ウォーターズの本についてのインタビューのはずなんだが、なんかダラダラとジャクリーン・ビセットのこととか喋る。編集者はかつての部下丹羽タケヲくんなのでもちろん仕切りとかはない。適時横にいたカメラマン役の編集者の人が進行してました。
 7時に編集部を出て、日劇東宝で『ピースメイカー』ジョージ・クルーニーとニコール・キッドマンの核爆弾盗難もの。何も言うことのない映画。見終わって3秒で忘れるなあ。なんか画面が妙に薄暗かった。それぐらいかな。あと、最後のあれって『セックス・スフィア』では? つまりたしかに核爆発はしないでしょうが、あの人たち確実にガンになってると思うんですけど。試写状を持っていなかった中原くんはUIPの奴に無礼な扱いを受けたとかって激怒しまくっていた。終わったあと二人で12時まで。さかんにSの悪口になる(ぼくは別にかまわないんですが、中原くんのことがあるんで伏せ字にしときます)。ふーん。帰って翻訳。ああ、まだ終わらん。
10/15(水)
 とりあえず翻訳を終える。横のものを縦にしただけ、みたいな奴。いやワープロだから縦にすらしていないかも。つづいて別冊宝島の殺人ホームページ紹介の原稿。リンク集Kriminalitaet/Crimeとか 殺人鬼フォントとか。大笑いなのはやっぱ

殺人鬼フォントである(Killer Font http://www.killerfonts.com/)。いったいなんなのかって言うと殺人鬼の書いた脅迫文とか声明文とかいうものがある。その筆跡をもとにして作ったフォントなのだな。ジェフリー・ダーマーとか切り裂きジャックとかオズワルドとかジョン・ディリンジャーとかいろいろあるけれど、やっぱり一押しはゾディアックでしょう。ちゃんと平文モードと暗号モードと二種類あるところが芸細かい。これをインストールすれば、きみでもゾディアック暗号文が書けるというわけだ。コンピュータ文化の爛熟もここまで来たのかと思うとちょっと感慨深いね。で、そうなるとやっぱ欲しくなるのが……どっかに酒鬼薔薇フォント作ってくれる人いない?

 木村くんから電話。「『オルタカルチャー』見ましたか?」あわてて本屋に走って購入。オレにことわりもなくこんな本作りやがって……じゃなくてバカ・ボーイズのHPが載ってたからよしとしとこう。ところでもちろん問題は山形浩生が書いている「小谷真理、およびそれを……」だろう。書いてる内容はわりと理解できるんだけど、この口汚さはちょっと強力すぎるかも。とりあえずノーコメント。「SF」の項に関しては、理論と例としてあげてる作品のあいだとの乖離に目をつぶってるとこが問題かもしれない。どう考えてもバートンはロマン主義者だし、ラファティはSF以前の人だもんねえ。


10/16(木)
 ドイツ文化会館でやっているドイツのサイレント映画の伴奏者にインタビュー(の付き添い)。妻はその後映画を見ていましたが、ぼくは帰って仕事だよー。『BACHELOR』のパム・グリアー原稿書く。
10/17(金)
 イマジカで『MIB』。なんか評判がさんざんなバリー・ゾネンフェルドの映画だけど、けっこう楽しんでしまった。B級バカSFとしてはそれなりの出来だと思うんだが。マイケル・ベリーマン(風)の宇宙人に向かって「うーん、骨格が異常だな」って言うとか(そりゃあマズイだろー)、リチャード・オブライエン(風)を見て「見るからに宇宙人だなあ」って言うとか、細かなくすぐりにそれなりに反応。

 高田馬場で大森望、三村美衣とシールド戦の練習をやる。バンチューで火の玉を引いてくるという卑怯の固まりみたいなデッキができるけど、勝負はボロボロ。トホホ。


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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com