墓参りツアー
9/1(月) Madison
成田5時55分発のUA889便シカゴ行きで旅立つ。シカゴ乗り継ぎ40分ほどでマヂソンに着く。マヂソンはウィスコンシンの州都。湖のほとりに単純な中層建築が並ぶ、雰囲気のいい町である。タリアセンも近い。ここはフランク・ロイド・ライトの町だ。居並ぶはプレイリー住宅。
しかし、ここへはライトのために来たわけじゃない。ライトと並ぶウィスコンシンの偉人、プレインフィールドの屠殺人ことエド・ゲインの墓参りなのだった(同行は運転手兼カメラマンの原書房I)。入国管理で「何しに来た?」って聞かれたらどうしようかと思ったが、妙な質問もなく無事入国に成功。とりあえず車を借りてホテルまでたどりついたところで今日はおしまい。市内のボーダーズでウィスコンシンのガイドブックを買って帰る。
9/2(火) Plainfield
朝、マヂソン出発。プレインフィールドはマジソンの北約90マイルのところ。車で1時間半くらいだろうか。ハイウェイの両側はトウモロコシ畑。どこまでもトウモロコシ畑が続く。どこまで行っても風景が変わらないよー。
眠くなってきたころ、ついに目的地到着。人口839人の村である。ちなみに事件当時の人口は690人ほどだったから40年で3割弱の人口増加である。
町は40年前から時間が止まったようなとろだ。ダイナーに入ると「ほお、どこから来たのかい? 日本? 珍しいねえ」などと声をかけられるようなとっても純朴な人々が住む町である。でも「で、何しに来たの?」って聞かれて「エド・ゲインの墓参り」って答えたらいきなり相手が黙ってしまうこと請け合い。やはりtouchyな話題なのである。さて、町の中でまず目につくのが金物屋。これがエド最後の犠牲者、Bernice
Wordenの店である。今は持ち主も名前も代わっているが、建物自体は同じだ。すかさず中に入ってみるが、もちろん床に血痕はない。親切な図書館司書にプレインフィールド墓地の位置を聞き、勇躍墓参りへ出かける。残念ながら写真で見ていたアーチ型のゲートはなくなっていた。きれいな芝生に陽射しをあびる墓石の図、はどうもトム・サビーニ版『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』という感じである。けっこう広い墓地なので、とりあえず二人で分担してエドの墓を探す。がほどなく見つかった。 墓石なしで葬られたという話だったのだが、ママ・オーガスタとヘンリー兄いのあいだにしっかり鎮座ましましているではないか。ゲイン・ファンクラブの奴が建てたのかな? しかし、すでに角はぶっ欠かれているのであった。バチ当たりな。ぼくはもちろんゲイン様への敬意をこめ、水をかけて十字を切ってきました。実は墓の土をちょっと採集しちゃったんだけど。
町の入り口にひなびたモーテルがあった。うーん、これってちょっと恐すぎるかも。もちろんvacancyで客が泊まりそうな様子はかけらもなかった。今度来るときはここに泊まろう、と心に誓う。
9/3(水) Providence
実りおおきウィスコンシン・プレイリーの旅も終わってふたたび機上の人に。今日はシカゴ乗り継ぎでロードアイランド州はプロヴィデンスまで。ここから車でマサチューセッツ州のフォールリバーへ向かう。1892年8月4日、晴れたとても暑い日に、この町で惨劇が起きた。そのリジー・ボーデン事件の現場が現在ホテルになっている。殺人を売り物にしている世界で唯一のホテルがThe
Lizzie Borden Bed & Breakfast &
Museum。これは普通行くよね。
実際に機上だったのは合わせて2時間半くらいなのだが、こう移動が続くとなかなかに疲れる。プロヴィデンスの空港でレンタカーを借り、走ること30分でフォールリバーに到着。なんかうらさびしい町である。かつては繊維工業や製材所が立ちならび、栄華を誇った地らしいが、今では「ジジババばかり」と宿の人も言ってました。宿の人から室内を案内され、事件に今も残る疑問点を聞かされるうちに猛烈に眠まってきたので寝る。
9/4(木) Fall River
死体が寝ていたソファに寝ころんでモーニング・ティーをすする。これぞ旅の醍醐味。今日はフォール・リバーに残るリジー・ボーデンの史跡巡り。まずはフォール・リバー歴史博物館に出かけてリジーの手斧、プレパラートに乗った犠牲者の血痕、ボコボコになった頭蓋骨の写真などを舐めるように観察。いや、別にリジーのための博物館ってわけじゃないので、案内のおばさんは「こんなにリジーの展示ばっかり人気になるとは思わなかったんだけど」と不本意そうなのだった。
その後墓場に向かってリジーの墓参り。なんか今回の旅行は墓参りばっかりしてるなあ。ただしこっちのお墓は観光コースに組み込まれてるんで場所もすぐにわかるのであった。リジーはお姉さんと仲良くならんで葬られていた。あとはリジーが釈放後住んでいた家など、この町はリジー一色である。他に売り物がないのね。しかしいずれにしても小さな町なのですぐにやることがなくなってしまうのだった。しょうがないので車で30分ほど離れたニューポートまで出かける。ニューポートでは古本屋を覗き、アーサー・ブレマーの日記(『タクシー・ドライバー』の原作)をゲット。何やってんだか。
宿に戻り、ビデオでエリザベス・モンゴメリー(『奥様は魔女』)主演の"The
Legend of Lizzie
Borden"(監督ポール・ウェンドコス)を見る。サマンサがリジー、とはだいぶ美化されてますな。どうも顔が柔らかすぎる。ところで、今晩寝るのは義母アビーが死んでいたところの部屋である。というわけでお約束の写真を撮って寝る。今夜はアビーの幽霊に会えるかしら。
9/5(金) New York
プロビデンスからNYへの飛行機はなんとプロペラ機。しかも乗客は10人ぐらいしか乗ってない。なのになんで荷物がなくなるの? 乗り継ぎしたわけでもないのに。これでもう三度目。荷物紛失に関してはベテランだからもう驚く気にもなれない。淡々と手続きを済ませ、タクシーでマンハッタンに向かう。
3時、ホテルで町山に再会。町山が渡米してからははじめてなんだが、SFオンラインのために毎月話してるからあまり久しぶりって感じはしない。しかもど田舎(本人談)のシラキュースに住んでいる町山はNYに来るのもはじめて、というんで必然的にぼくが案内することに。たっていつものお店に行くだけなんだけどさ。とりあえずオタクなものに飢えている町山をForbidden
PlanetとEast VillageのKim's Videoに。Mondo
Kimのすばらしい品揃えにしばし恍惚のときを過ごす。ぼくはDead
RingersとPink
Flamingosのクライテリオン版LDを買う。町山はパム・グリアーのSheba
Babyとか買っていました。
7時、ホテルに戻って原書房Iと合流、夕飯を食う。内陸に住んでいて魚に飢えているという町山のリクエストでなんとホテル近くの日本料理屋に。はじめてカリフォルニア・ロールというものを食した。
食後、町山とvirgin
Megastoreの下にある映画館でMimicを見る。マンハッタンの地下鉄に突然変異で巨大化したゴキブリが住みついているという話。ドルビーのおかげで頭の後ろを飛び回るゴキブリの羽音が嫌すぎる。ウェルメイドな怪獣映画だが、なんといってもこのロケーションで見ると怖さも倍増。帰り道、思わず地下鉄の通気口を覗きこんでしまうぼくらであった。
9/6(土) Manhattan
朝飯を食うと、歩いて72丁目のダコタ・アパートまで。墓参りツアーの一貫なので、アパート入口で黙祷。その後玄関前に座りこんで、『ライ麦畑でつかまえて』……は読まない。地下鉄でDelancy
St.まで下り、リトル・イタリーへ向かう。72年にマフィアのボスが暗殺された事件で有名なレストランを探したのだが、残念ながらつぶれていた。
チャイナタウンで飲茶。チャイナタウンと言えばビデオ屋だが、どこへ行っても日本ものばっかりなところがどうも情けない。飲茶屋の主人に教えてもらって行ったElizabeth
St.には香港みたいなオタク・ビルがあった。アニメ・ショ
ップとゲーム関係の店ばかりが並んでいる。しかし、はってあるポスターは全部セーラームーンなのだった。ちなみに近くのマガジン・スタンドではエヴァのエロ同人誌(のコピー)を売っていた。ニューヨークまで来てこれかよ!と町山と突っ込みあう。
ダウンタウンのTower
Videoに行くとすぐ隣にアニメ・ショップができている。当然チェック。またエヴァの山。トホホ。『ハード・ボイルド』のチョウ・ユンファTシャツを着ていた町山は数回「いいシャツじゃーん。どこで買ったの?」とナンパされていた。ああ情けない。
フィルム・フォーラムではパム・グリアー特集をやっている。"Foxy
Brown"と"Friday
Foster"の二本立て。見所多数すぎてとても書けない。もう場内受けまくりである。特に"Friday
Foster"はすごくて、パムは黒人世界を揺るがす陰謀をあばくスーパー女流カメラマンという役どころ。出てくる男たちはみんな彼女に惚れて、パムはみんなとセックスしちゃって、でも誰からも恨まれない。「きゃあ、いやーん」とか言いながら敵をなぎたおしていくんだが、なんか峰不二子を実写にしましたって感じである。でもスタイルまで含めてマンガのままだからなあ。すげえよなあ。「俺が求めているのはこれなんだよ! アニメじゃないんだよ!」と町山の魂の叫びであった。
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Kiichiro Yanashita /
柳下毅一郎 / yanasita@gol.com