LAの呪い


9/18(水)
 全日空でLA。同行は東宝東和が二人。途中ひどく揺れる。LAに着いたときにはすっかり気分が悪くなっていた。揺れる中でタイプしていたのが悪かったんだろうか。ビヴァリー・センター前のSofitelにチェックインしてしばらく横になる。目の前にドラッグストアがあるのだが、辛くて4ドルもするエヴィアンを開けてしまった。夜はイタ飯。寝る前にテレビをつけるとTNTで『夕陽のガンマン』をやっている。リー・ヴァン・クリーフが格好良すぎるな、どうも。
9/19(木)
 今日は暇な日だ。ひょっとしたら、今回の取材はすっげえ楽かもしれない。同行の日経の記者の人はマリオ・カサールにインタビューとかしているが、ぼくは暇なので友達を呼び出して運転手としてこき使い、買い物三昧。ゴールデン・アップルで"Mars Attacks!"のトレーディング・カードをゲット。クールじゃん! 2割引で『Kinski Uncut』。かつて発売直後に回収となり、以後ずーっとレア・アイテムだったクラウス・キンスキーの自伝。ずっと探していたのである。再刊されていたとは露知らず、ラッキー。eelsとか(ほとんどジャケ買い)Murder Can Be Funの新しい号とか買う。まあでもいつもの買い方に比べればおとなしいかな。最近は、値段よりも「どこに置くのか」ということを気にするようになったからか。

ムッソ&フランクで夕食。老人ばかりのウェイターがすげえ恐い。メニューを指して注文すると「わしは目が見えないんで、言ってくれんとわからん」と怒られたりする。変なものを頼むと「それは45分かかるがね。こいつ(と言ってToday's Specialを指し)ならすぐできるが」とか言って注文させてくれなかったりする。どうも1919年からずっとここに勤めてるんじゃないかね。

 ホテルに戻るとTNTでは『西部決闘史』。なんかお師匠さん特集って感じですか? 「ボンボボンボンボン サバーター 無敵の男サバーター」と間抜けなテーマ・ソングを聞きながら、いつのまにか寝ている。


9/20(金)
 10時半に迎えが来てLAから車で一時間の『The Flood』撮影現場へ行く……はずが撮影スタートが4時からになったとかで出発が2時に。で、終わるのは? しかたないんで午前中は仕事。ま、暇で困るってことだけはないから安心っす。2時、バスで砂漠の真ん中、元ロックウェルの爆撃機工場だったところまで行く。掲示板には「夏だ! ガラガラヘビの季節だ!」なんて張り紙がある。大丈夫なのかよ。中ではセットの隅のほうに座って、次々に来るスターやスタッフをインタビュー……と行きたいとこだが、なんか五月雨式。モーガン・フリーマンが来て十分ほど喋り、1時間ほど待ってから監督がって感じ。まあ、基本的に邪魔物な人たちだからしょうがないでしょ。映画の中身は“スピード・オン・ウォーター”と言ったら怒られるのかも知れないが、まあそういう感じでしょう。守秘義務があるような気がするので、あまり余計なことは書きません。モーガン・フリーマンとか、ほとんど聞くことがなくて困る。全然興味ないもんね。

 クリスチャン・スレーターはほとんど普通のアンちゃん。「最近? そうね、昔はたしかに怒りまくってたけどねえ……」とか。まあ、そんなもんだろうなあ。プロデューサーが「これは七十年代のパニック映画と違って、自然災害は悪者ではない」というので、それってPCなの? と言ったら馬鹿受けしてました。

 10時まで現場にいて(その間ほとんど何も食べず)ホテルに戻ると、TNTで『The Manster』。日本に来ている新聞社の特派員が(アメ公100%にしか見えない)日本女タラにたらしこまれて、例によって一緒に風呂に入ったりしてるうちに、体の半分が獣になってしまうって話。毛の生えた腕でチャイナドレスに買い物かごをさげた日本人の主婦を襲ったりするわけ。どんどん獣化は進んでいって、その完成形が肩からもうひとつ頭の生えたオセロマン(笑)。舞台がなんで日本なのか全然わかんないんだけど、警部とかが怪しげな日本語を喋ったりする。最後には獣の部分と人間とが(木の陰で)完全に分離してハッピー・エンド。こんな映画を毎週見られるんだから、アメリカ人は幸せだなあ。62年UA作品。


9/21(土)
 午前中、例によってしばらくタイプを叩く。午後はハリウッドの東はずれAmok Booksへ。オーナーのスチュアートとは半年ぶりくらい。スチュアートには佐川くんの『蜃気楼』を出せば?と勧めているのだが、翻訳者が見つからず難航中らしい。

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店ではネオナチ系の雑誌を買ったりとか。
 近くにあるハイパーなレンタルビデオ店、Mondo Videoでキトゥン・ナティヴィダッドのサイン入りポートレートとクリスティン・ジョーゲンセン(エド・ウッドの『グレンとグレンダ』の原作になった性転換者)の自伝をゲット。説明の方が圧倒的に長くなるものしか買っていないな。

 ウェスト・ハリウッドのディファレント・ライツではゴア・ヴィダルの自伝を見つけてこいつも忘れずにゲット。しかし何よりすごいのは『マイケル・ジャクソンはぼくの恋人だった』という謎の本だ。なんせどこにも出版社名が書いてない。まあ訴訟沙汰になったらまずいからなんだろうが、例の少年がつけていた日記とか、少年が書いたマイケルのナニのスケッチ(白黒まだらになってる)とか載っていて、かなりすさまじい。すぐに絶版になるのは必至と見てすかさずゲット。すでにかばんはパンパンなんですが、これを逃したら一生の名折れでしょう。やっぱ。

 8時からはLA最大の奇跡、サイレント・ムービーへ出かけてハロルド・ロイド特集三本立て。ここは60年代からやっているサイレント映画専門の劇場。経営が成り立っているというのがとても信じられないが、アットホームな雰囲気がすばらしい。目玉はロイド最後の大作という『The Freshman』。キートンの『新入生』とかと同じような感じだが、ギャグの密度には脱帽。場内爆笑、拍手なりやまず。映画が終わるとオーナーとオルガニストが出口で見送ってくれる。


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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / yanasita@gol.com