山形国際ドキュメンタリー映画祭日記
10/2(月)
午後3時半の「つばさ」に乗って山形に向かう。山形に行くのははじめて。もちろん山形新幹線に乗るのもはじめてだ。実は、無声映画伴奏家の妻/柳下美恵が山形国際ドキュメンタリー映画祭でピアノをひくことになって、呼ばれていくのである。ぼくはそのオマケ/付き添い/荷物持ちだ。妻はゲストで、交通費も宿泊費も向こう持ちでお大尽だが、ぼくは付き人なので旅費は自前、宿泊は妻の部屋に居候するという大変情けない状態である。妻の機嫌を損ねると山形から追い出されてしまうので、ひたすら下手に出る。「お嬢様、喉はすいていらっしゃいませんか、ジュースを買って参りましょうか」「お嬢様、お足をお揉みいたしましょうか」
7時過ぎにホテルに到着、荷物を降ろしてからひとまわり。ホテルの近くにタイ飯屋を見つけたので、入る。内装はごく普通のバー/喫茶店なんで、「まあ東京にあるみたいなバリバリ現地風のは無理か」とか舐めてかかって、一口食べて死んだ。激カラである。こんな辛いタイ飯を食うのは久しぶりだ。参りました。
10/3(火)
7時半起床。飯を食ったりシャワーを浴びたりしていたら、もう9時をまわっている。慌てて事務局へ。妻のリハーサル場所等の打ち合わせがあるので、あまり遅刻するわけにはいかない。映画祭のプログラム・ディレクターである福島氏、マーク・ノーネス氏に会う。今回の上映について骨を折っていただいているのだ。ぼくはもちろんカバン持ちとしてついていきます。
妻がひいているあいだはとくにやることもないので、旧県庁を見物。今は資料館のようなものになっていて、中にはおばさんがいっぱいいて説明してくれる。目があってしまうと説明を聞かされるので、ひたすら顔を下げて早足で一回り。12:30に車が迎えに来て、オープニング会場の山形ビッグウィングまで行く。途中、河原に芋煮会にいそしむ人たちの姿あり。ビッグウィングはいかにも補助金で作りましたって感じの国際会議場。オープニングは“会議室”と聞いていたけれど、国際会議用の会議室であるからして、ホールと言った方が正しい。着くとちょうどセッティング中。妻はピアノにとりついてひく。ぼくは横に立って「いやあ見事な演奏でございますねえ」と太鼓持ち。まあカバンも持ってますしい。司会の人も来て、リハーサルになる。こうなると用済みのかばん持ちは外でトンボとたわむれるのみだ。
5:00開会式。一通り標準的な挨拶などあったのち、リュミエール兄弟が撮った世界最初の映画を上映するという段取りになる。日本で撮影した映像(超珍品)も含めて、約60分。これに伴奏をつけるのだ。DAT化したデータがあるので、ひょっとしたらアップするかも。まあまずまず成功だったのではないでしょうか。所詮太鼓持ちの言ってることですけどね。
終映後、オープニング・パーティ。東京から来ている友達や、ゲストの映画作家などと歓談。ぼくが個人的にファンをやっている帯谷有理氏にも挨拶。しかし、相変わらず無愛想な人である。愛想は作品に使い果たしてしまっているのかもしれない(笑)。
10/4(水)
カバン持ちの仕事が半分おわったので今日は映画三昧。いやあ映画祭って感じー。まず10:00、コンペ作品で『フープ・ドリームス』。スラム街でバスケに夢を託す二人の少年を描いた感動的作品で、米国では大ヒットしたのにアカデミー賞ノミネートされなかったので話題になった作品。高校時代から天才とうたわれた少年と、才能はあるのに集中力に欠けた子との好対照なバスケ人生を丹念に追いかける。どんな人生だって最後はハッピーエンドなのだ、と月並みな感想を抱く。そのまま『カルメン・ミランダ:バナナが商売』。ブラジルのスーパースターだった歌手カルメン・ミランダが、アメリカ人の考える南米ステレオタイプに押し込まれ、いかに搾取されたか。と書けばわかるようにあまりに単純であり、あまりに暗い。10年前のぼくなら知らないが、今ではこうした単純な歴史観はちょっと受け入れがたい。カルメン・ミランダの圧倒的な楽しさ、ステレオタイプの持つ力についてまったく触れていないし、だいたいその時カルメンがどう感じていたのか、ということについて、ちゃんとした検討を加えていないのだ。
夜、『クラム』。今回の映画祭でいちばん見たかった映画である。60年代を代表するアングラ・コミック作家ロバート・クラムについてのドキュメンタリー。クラムが女性に対する愛憎、狂った家族たち、エスタブリッシュメントへの果てしないルサンチマンを語る。とてつもなく魅力的な映画。中でもクラムに最大のインスピレーションを与えたという兄、すばらしい才能を持ちながら狂気に落ち込んでゆくチャールズが圧倒的だ。これは是非、どこかの会社に購入を検討していただきたい。8:00から特別上映になる「ゴダールも絶賛した」アルメニアの幻の映画作家アルタヴァスト・ペレシャン監督特集。予備知識ゼロで、てっきりセルゲイ・パラジャーノフみたいな映像美の人だと思って見に行った。あっと驚くタメゴロー。まるでジャン・ヴィゴのような鮮烈な映像美と、超スタイリッシュな編集を持ち合わせた、実にカッチョいい映画だった。ロシア革命から全学連までの記録映像を再編集したプロパガンダ映画が圧巻。妻「これを見せられたら共産党にも入っちゃうかも」。しかし、朝から映画見っぱなしの身にはちと辛い。3本くらい見たところでダウン。
10/5(木)
今日は映画は休み。だって仕事しなきゃいけないんだもん。したがって映画の本数はぐっと減ってます。12:00『サン・ピエトロの闘い』。これは〈電影七変化〉というプログラムで、ドキュメンタリーの歴史をいろんな形で探るというもの。映画はジョン・ヒューストンが撮った戦争プロパガンダ映画。軍による検閲を受けて、完全版は何十年も見られなかった。たいへん貴重なもの、なんでしょう。でもそれだけ。そのあとフィリピンの妙ちきりんな映画と、ナチスが宣伝用に作った映画(ユダヤ人収容所がいかにすばらしいところかを宣伝する)を見る。後はまあ、ひたすらパワーブックにかじりついていたわけです。能率はもひとつだが、家じゃないとこんなもんかもしれない。
Kiichiro Yanashita /
柳下毅一郎 / PDE01513@niftyserve.or.jp