95年9月下旬


9/21(木)
 『東京FIST』の劇場用パンフ用に、ウェイン町山と対談。恵比寿のレンタルルームを借りて、喋ったのをライターが起こすという奴。ふだんはちゃんとした対談なんかしないで、適当に原稿で会話をでっち上げてるんで、喋るだけというのはどうも落ちつかない。しかも金はとっぱらい。町山「塚本さん、ドラゴン入ってるね」。すいません、ぼくあまりドラゴン入ってないんです。
9/22(金)
 10:30、『ユリイカ』の須川さんと打ち合わせ。サイケデリック特集だって。なんでも、上司から「ピンク・フロイドの特集はどうか?」と振られて、「いやあフロイドも面白かったのはシド・バレットがいたサイケ時代(注:サイコ時代の間違いでは?)だけっスよ」と答えたらサイケ特集をやることになってしまったという(笑)。今時サイケ。ところで、最近どうもぼくの話はくどいようだ。同じことを何度も繰り返して、ほとんどラリ公の会話。しかもサイケデリック。
 午後は電話しまくり。しかし4時頃時差ボケで眠くなり、つい寝てしまって『BRUTUS』滝本氏他こっちからかけた電話の返事を寝過ごす。
 7時半、妻が帰ってきて起こされる。「何寝てんのよ」時計を見てびっくり。7時から打ち合わせだった! 慌てて着替えて飛び出す。結局40分以上待たせてしまったが、駅前でオブスキュア・インクの三浦氏と打ち合わせ。しかし、三浦さんは『タモリ倶楽部』を見ていたそうだからぼくが寝過ごすことは知っていたのだろう。裏インターネット本の打ち合わせ。すでにみんな原稿を入れているころ、ようやく依頼されたという……それにしても三浦氏はいきなり「切腹はもともと中国では刑罰じゃなかったんですよね」とか「指つめの本場はボルネオなんです」とか言い出すんで、びっくりしてしまいました。そういう人だったのか。
9/23(土)
 時差ボケですっきりしない頭を抱えつつ、とろとろと原稿を書く。午後、佐川くんから電話があり、ロフト・プラスワンでのトーク(対談)に出演依頼される。11/24 6:30だそうです。みなさん来てくださいね。
9/24(日)
 午後、電車に乗って鎌倉まで出かける。神奈川県立近代美術館で開催されている〈ヒトラーと退廃芸術〉展が本日までなので。“退廃芸術”というのはナチス党によって「認められない美術」とされ、美術展や美術館から排斥された絵画・彫刻作品のこと。具体的に言うと抽象は全部だめ。表現主義もだめ、印象派もだめ、もちろん未来派とかキュビズムとかダダとかシュルレアリスムなんて冗談じゃない。これは非常に政治的な展示なわけで、実際の絵を鑑賞するより、「この絵を排斥するにいたったナチスの心理とはいかなるものだったのか」ということを考える方が面白かった。
 一枚だけ、ナチス公認の陰毛画家ツィーグラーの絵が入っていて、このキッチュさにはしびれましたね。および退廃芸術排除を理論づけたウォルフガング・ヴィルリヒの著作(退廃芸術に描かれる人物像は、奇形や障害者の姿に酷似している、と論じる)がたいへん興味深い。これは評論として、きわめておもしろいところにあると思う(当否は別だが)。
 なぜか人だかりしている絵が一枚あって、なんだろうと思うとゴッホだった。ゴッホをゴッホだからと言ってありがたがる姿勢は、ナチスのそれとなんら変わるところはない それは言っておきたい。蕎麦屋で天せいろを食って帰る。
9/25(月)
 東京国際映画祭で上映される『新編丹下左膳・隻眼の巻』を見る。なぜか妻が「中川信夫だから好きでしょ」と押しつけていったのだった。しかし、いきなり立ち回りの途中から始まって、立ち回りの途中で終わってしまうという代物。これだけ見てもね。しかし、丹下左膳はほとんどフリークのようだと言うことは十分わかった。
9/26(火)
 太田出版の北尾氏が来て打ち合わせ。延々と殺人の話をする。北尾氏はいろいろな人からいろいろ抗議を受けて、いろいろ悩んでいらっしゃるようだった。まあ影響力のある出版社は大変だなあってことで。『QJ』と『朝日新聞の戦争責任』の本をいただく。
9/27(水)
 町山から電話。「おまえ、向こうで何してるのかと思ったら西村知美と愛の逃避行だったのか」なんのことかと思ったんだが、『FLASH』の今週号に顔写真が載っているらしい。税関を出たとき、直前にいたのが西村知美とその恋人だったという(笑)。載るまで気づいてなかったというのが、ほとんどマヌケ呼ばわりされてもしょうがねえな。
 4:00永江朗氏来る。なんかの図書館向けの雑誌の取材で、翻訳家として業界への文句を言ってくれという。よくわかんないままに、「印税が安すぎる!」「原稿を入れたら本を出せ!」などと日頃抱えている鬱憤をすべてぶつける。「白石朗って誰なの?」の話には笑わせてもらいました。
9/28(木)
 扶桑社から『バド・ウィギンズ氏のおかしな人生』("Force Majeure"の邦題)の見本が届く。とうとう先を越されてしまったか。"Geek Love"はどうなったんだよー。もう電話するのもうんざりしてるんだが、またペヨトルに催促しなくてはならないのか。ここに書くのもバカバカしいが、ともかく原稿を入れたら本を出してくれ
 午後、早川書房に出かけて原氏に会う。最近読んだ実録犯罪本をプレゼンテーション。次から次へと死体写真を見せていたら、いささかグロッギーになっていたようだった(笑)。健康のため、殺人本の読みすぎには注意しましょう。その後秋葉原でDATウォークマンとマイクを買う。
Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / PDE01513@niftyserve.or.jp