95年9月 柳下@ニューヨーク


9/13(水)
 ニューアーク空港に着いたのはもう9時過ぎ。両替所はしまっているし、上から下まで探し回ったがキャッシュ・ディスペンサーはない。全然ない。アメックスの奴しかない。ニュージャージーみたいな田舎、二度と来るもんかしょうがないんでタクシーでマンハッタンに行くことになってしまった。行き先はミッドタウン。今晩は『マンハッタン少年日記』訳者の梅沢葉子さんの家に泊めてもらう予定。着くと引っ越しだーと騒いでいる真っ最中でした。梅沢さんはニューズウィーク・ジャパンのNY支社(どうもこの存在はいまだに不可解である)で働いている。話しているうち、実はDana Lewisと知り合いであることが判明した。最初は、DanaがDavidだったことは知らなかったので、「どうも男っぽい人だなあ」と思っていたという(笑)。
9/14(木)
 今日から結婚のため日本に帰るカメラマン・上乗氏のアパートに居候することに。場所はW23thで、チェルシー・ホテルのすぐ隣。そう言えば、最初にNYに来たときはチェルシー・ホテルに泊まったんだっけ。ミーハーである。
 今日は買い物の日である。行ったところはW71thのApplause Books(映画専門書店)、73thのHMVとタワー・レコーズ、それからW56th?のミステリアス・ブックショップ、ワシントン・スクエアに降りてきて、ブリーカー・ストリートのVillage ComicsとKim's Video Undergroud。そこから東に歩いてE7thにあるオルタナ雑誌屋See Hear、さらにセント・マークス・ブックショップへ行っておしまい。いやあ疲れた疲れた。面倒くさいので何を買ったかはいちいち書きません。問題は、セント・マークスに着いたときにはへとへとで、ほとんど本が見られなかったという点だな(笑)。映画を見ようかとも思っていたのだが、とてもそれどころの騒ぎじゃなかった。帰って死んだように眠る。
9/15(金)
 今日はまずMOMAへ。「湖畔のスティーグリッツ」などを見る。ディズニーの美術という展示もやっていました。Know your enemyってことで。カフェ(改装中)でサンドイッチなぞ食べてから、5番街を散策。FAO Schwartzは二階建てのおもちゃ屋で、ほとんどキッチュの殿堂である。子供が乗れるくらいのサイズに拡大されたモノポリーの駒がディスプレイしてあるのだ。「投げられる脳味噌」ブレイン・ボールに心惹かれる。近くのワーナー・ストアも覗く。バカにしてたけど、すっかりハマってしまいました。
 4時半、Film Forumへ。今は「昔大女優、今は化け物」映画の特集をやっている。要するに、『何がジェーンに起こったか』以来生まれた怪物女優映画の特集。今日はジョーン・クロフォードの『血だらけの惨劇』と彼女の伝記映画『マミー・デアレスト』という2本立て。驚いたのは『マミー・デアレスト』がカルト映画になっていたこと。みんなでゲラゲラ笑いながら声を揃えてセリフを合唱するのだ。「針金の・ハンガーを・使うな!」
9/16(土)
 まずは世界一巨大な古本屋Strandへ。古本をひとしきり漁る。値段は問題ではなく、本の山をどうするかという方である。幸いにしてストランドは買った本を直接家に送ってくれる。すっかり安心して買いまくる。ハードカバーが一冊5ドルだもん。結局100ドル近く買ったろうか。多くはTC本。Radinのハードカバーが、まあ掘り出し物かな。
 木曜日に行けなかったイースト・ヴィレッジをもう一度探索しなおすことにして、そっち方面に向かって歩く。途中ブロードウェイのShakespear & Co.に寄り、また本を買う。これだけ買って、よくまだ買うものがあるなあ、と自分でも思う。何か悪いものにでもとりつかれているのではないか? 新しく出たばかりのマンソン本(シャロン・テートの死体写真つき!)をようやくゲット。こいつはヘビーだぜ。昔セント・マークス・ブックショップがあったところが、今ではサイバー・カフェ@Cafeになっている。ちょっとチェック。お茶代の他に、$10/時間のコンピュータ代がかかる。どこかの伝言板に書き込みをしようと思ったが、rimも落ちているしsdwは弱まっているので、urlがわからないのだった。
9/17(日)
 今日はコニー・アイランドに行くぞ! と意気込んで目をさますと雨が降っていた。30日間も降ってないって言うのに、よりによって今日降らなくったってなあ。がっかりなんで、しかたなく今日は映画の日と言うことに。買ったビデオは見なければならぬ。つうんでまず"The Last Day of Planet Earth"。これが実は『ノストラダムスの大予言』なのだ! 日本じゃあ名画座にもかからない映画がビデオで出てるんだもんなあ、これにはびっくり。日本で上映されないのは、核戦争で変形した人類と言うのが出てくるせいだとぼくは理解しているんだが、そこら辺は原爆は安全だと考えている国ならではってことだろうか。いずれにせよ、「環境汚染の影響で異様に足の速い子供が産まれる」なんて映画にいちいち目くじらたてる気がしれん。
 2時、リンカーン・プラザで『I Can't Sleep』。中身について何も知らずに、「今年最高の映画の一本」というヴィレッジ・ヴォイスの評だけを信じて見に行った。ふたを開けるとフランス映画。『ショコラ』のクレール・ドニ監督で、エイズで死んだホモの連続殺人犯ティエリー・ポーリンの話だった。本当に知らなかったんだよ、そんな話だとは。クールでなかなかいい。でも、本当に面白かったのはその次に見た『Kids』。ラリー・クラークが映画を作ったと聞いては、見ない訳にはいくまい(ラリー・クラークとはヘロ中の生態を捉えた写真をいっぱい撮ってる奴だ)。期待にたがわずリアリスティックで、クールで、残酷なNY少年映画。ノー・フューチャーですらない、未来のことなど考えもしない(考えられもしない)若者たちの物語。感傷にひたることすら許してくれない映画だ。中身については、つまりはセックスとドラッグとヴァイオレンスと、それにまつわるリスクの物語、と言えばいいか。例によって英語で記事を書いて、タイトルをつけるとしたら"Kids aren't allright."かな。
9/18(月)  本当なら今日はもう飛行機に乗っているはずだった。17日に帰国のつもりが、飛行機の切符が全然取れなくて19日になってしまったのである。今日はフィラデルフィアまで出かけようかなんて甘いことを考えていたんだが、ムター・ミュージアムは火〜金であるということが調べで判明した。あそこに行けないんじゃあしょうがないよ。方針変更してニューヨークの警察博物館に行くことに。
 警察博物館はE20thのポリス・アカデミー内にある。警察内なので、IDを見せて通行証をもらわないと中に入れない。かっちょいいのう。さて、肝心の部屋は15畳くらいの部屋がひとつきり。展示は昔の勲章や、NYPDがスポーツ大会で獲得したトロフィーなんかがメインで、ちょっと雑然としている。たとえばドイツの博物館とは比較になりませんな。しかし展示物はさすが犯罪先進国アメリカだけのことはある。アル・カポネが使っていたマシンガンとか、チャップマンがジョン・レノンを殺した銃弾とかが展示してあって、ちょっとしびれました。麻薬関係の展示がクラックから始まるところは、やはりニューヨークって気がしたね。1時間ほどのんびり見て出る。その後ヴィレッジで服など物色するが、ほとんど買わない。本は少し買う(笑)。まだたたりが抜けてないようだ。
9/19(火)
 朝、梅沢さんと朝食。1時の飛行機でJFKを発ち、一路成田へ。機内ではマイケル・クライトン原作の『コンゴ』をやっている。なんだ、この古くさい話は。これって「失われた黄金都市」(ハヤカワ・ミステリ)じゃないか? どうやらジュラシック・パークのブームに当て込んで、昔映画化権だけ買って寝かしていたクライトン作品をすばやく映画化したと見える。いわばクライトン・エクスプロイテーション。リック・ベイカーが憤死しそうなゴリラ・スーツが出てくる。作ったのはスタン・ウィンストンだってえ? 何やってんだ、このオヤジは。
Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / PDE01513@niftyserve.or.jp