日記95年7月上旬


7月1日(土)
 地獄の仕事月間が明けたので、のんびりゲラを直したりしている。のんびりついでに中野のタコシェ(TRIO)にまで出かけ、『車掌15号』なんぞを買う。画鋲特集。やっぱり直販とかで買わないと、由緒正しい画鋲はもらえないようだ。ぼくのは#447
 6時、ボスニア帰りのバロウズ翻訳家で元相棒・山形浩生を迎える。駅まで迎えに行ってびっくり。なんとピアス穴を開けている! しかも眉にまで! 想像もつかーん! ついに新式・改良型山形ver2.0の登場か?と思いきや、中身は全然変わってなかった。
2日(日)
 なおものんびりと『ドラキュラ紀元』(キム・ニューマン)を読む。このオタクさには負けた。いきなり『パンドラの箱』だもんなあ。さすがはホラー映画評論家だけのことはある。友成純一が悔しがりそう。
 なんか忘れてるような気がするな。
3日(月)
 『WIRED』から翻訳を依頼されていたのだった! 思い出したんでしこしこ訳す。バランス的に言うと『Cape-X』の仕事も引き受けるべきなんだろうが、なぜかここはメールを使わず電話してくるんで、留守にさえしてれば引き受けずに済む。楽勝楽勝。
 テレビ東京で『続・荒野の用心棒』をやっている。やはりマカロニの最高傑作であらんや。無意味に泥レスはじめるシーンが好き。やっぱり泥があったらレスリングしなきゃ。ちゃんとジャンゴが手を潰されるシーンも入っていたよ。
4日(火)
 雨なので外には出かけない。夜、ケーブルテレビで『エクスターミネーター』を見る。なんでこんな映画を見てしまったものか、想像もつかない。普通一度見たらもう十分だろう(笑)。娼婦を買っといてそのヒモを処刑するというのが、まるでセックスしてから「いつまでもこんなことをしてちゃいかんよ」と服を着ながら説教するオヤジのようである。
5日(水)
 ちょっとはビデオを片づけようと思ったので『The Sinful Dwarf』を見る。たぶん70年代はじめに、たぶんスウェーデンで作られたSMポルノ。普通よりちょっと小さい人が出てきて、女の人を誘拐したり拷問します。これ以上はとてもここには書けません。
6日(木)
 新装なったフィルムセンターへ出かけて、インド映画の『ストリート・シンガー』を見る。ポストモダンなフィルムセンターへ行くのは初めて。まあダサイ建物だけど、問題は映画館だからね。映画はそこそこ面白かったけど、ヒロインの性格がコロコロ変わるのには笑った。その後渋谷ビデオスタジオに出かけて、『タモリ倶楽部』のための打ち合わせ。適当に口から出まかせを言って帰る。
7日(金)
 ヘラルドの水越氏の結婚パーティに行く。「いいかげんに雑誌送ってこい」キネ旬の青木氏や、ビデオでーたの平井さん(見てますかー。業務連絡:最近は大森望のページからhyperdiaryめぐりをするのがトレンドです)らと会う。平井さん、はやいとこホームページを作るように。
8日(土)
 10時、妻が慌てて寝室に飛び込んでくる。「今日『タモリ倶楽部』出るんじゃないの?」「え? そうだよ、もちろん」「ごめん、起こすの忘れてた」おいおいおい勘弁してくれよ。泣きながらシャツを着るえハウフルスから電話ですかすいません今すぐ出ますタクシーをつかまえてテレビ朝日に急ぐ。10時20分着。待ちくたびれてオープニングを撮りはじめようというところに飛び込む。すいません、タモリを待たせてしまいました。テレ朝のゴミ捨て場で『タモリ倶楽部』の録画である。
 出演者は爆笑問題と川勝正幸さん、それにもちろんタモリ。ぼくは「エド・ウッドやゴミ映画に詳しい人」という役どころである。でまあ出たんですけどね、いやそりゃあ遅刻したぼくが悪いんですけどね、でもこっちは素人なんだしさ、もうちょっと扱いってもんがあるんじゃないのというわけで爆笑問題の太田にいじめられまくり。フォローも全然ないしさあ。企画も投げやりだしさ。
 だいたいこれってウェイン町山が構成作家である実妹町山広美を通して持ち込んだ企画で、最初は江戸木純が出るはずだったのだ。エド・ウッドと言えば江戸木でちょうどいいでしょ? で、ビデオの選定も江戸木がやったんだけど、そこでなんかケンカして江戸木が降りてしまったのだ! で、町山がはじめたことだからってんで後始末をやらされちまったってわけ。中野貴男かデルモンテ平山がいいだろうと言ったのに、まともな映画評論家の方がいいって言われてぼくがやることになったのだ。でもあの内容ならどう考えてもデルモンテの方がふさわしいじゃないか。
 最初からかかわってればまだやりようもあったんだけど、いきなり水曜の深夜に出演が決まって、ビデオの選び方もでたらめだしエド・ウッドの作品は入ってないし、構成は何もなくて台本は全部こっちにお任せだし、ちょっと勘弁してくれよなーって感じ。まあ、あのいいかげんさじゃあ江戸木が怒るのもわかるよな。ギャラも出るんだか出ないんだかわかんないけど、出ても3万円くらいでしょ、どうせ。
 川勝さんと飯を食ったあと(「まあ、将来犯罪コメンテーターとしてテレビに出るための練習だと思って」)、渋谷に出て文化村ミュージアムでラルティーグ展を見る。スポーツをしてるか、ピクニックに行ってるか、船遊びか、絵を描いてるかしかしてない……最初は幸せな光景に目を細めていた人々も、最後には「おまえ仕事しないのかよ」と腹が立ってくるという仕組みだ。しかし、カメラと車と美女が好きで、美しい女たちを写すことが最高の喜びだったという彼こそ元祖オタクだったのかもしれない。帰るとどっと疲れが出る。うつらうつらしながら『ピアノ・レッスン』を見る。なんだ、ただのエロ映画じゃねえか。ハーヴェイ・カイテルの変態セックスは濃そうである。町山に電話し、うっぷんをぶつけて寝る。
9日(日)
 江戸木に電話して事情を聞く。江戸木は出るつもりはなくて、出るとは一言も言ってないのに、向こうが一人決めして勝手に明日夜の9時に麻布まで来いとか言うんでキレたんだとか(「なんか頭の悪いADが電話してきて、「出ない」って言ったら「はあ」って黙っちゃうだけでさ、全然ラチがあかないんだもん」)。二度とハウフルスには係わるまいと誓い合う。ケイブルホーグも怒ってるとか。テレビはダメだね、やっぱり。
10日(月)
 南青山のPSCに出かけてホームページの材料を受け取る。ついでにビデオも何本かかすめ取ってくる。
 新宿御苑に新しく出来たフリースペースで佐川一政氏と特殊漫画家・根本敬の対談トークショーがあるので出かける。唐沢俊一氏やら『ヤプー』の沼正三やら右翼の鈴木邦夫やら尋常ではない”濃さ”。あと友沢ミミヨとか『ケンペーくん』の人とか特殊AV監督の中野貴雄とかいっぱいいたような気がするけどもう覚えていない。ちょっとあてられたので早々に失礼して寝る。と思いきや、結局ブニュエルの『小間使の日記』を見てしまった。一人も善人が出てこない、徹頭徹尾の酷薄さに打たれる。またジャンヌ・モローを見てしまったな。
11日(火)
 3時半から松竹で『乙女の祈り』を見る。はっきり言って歴史に残る大傑作である。見るのはこれが二度目だ。『櫻の園』みたいなヘナチョコ映画には決してマネできない聖性をはらんだ映画である。大林千茱萸と会ったので、試写の後お茶しようということに。赤信号で慌てて信号を渡ったら、ポキ「あ、靴が割れちゃった」プラスティックの靴が見事にまっぷたつ。「一昨日香港で買ったばかり」だそうである。さすがは香港製(笑)。ワシントン靴店で7倍の値段の靴を買うのにつきあい、30分ほどお茶する。香港で見てきたという『黒太陽・南京大虐殺』の話には大爆笑。8/21に往復チケットが切れるので、それまでに香港に行こうと約束。ここに書いたからな、もう世界に向けて誓ったからには絶対行くのだ。
 またしてもシャンゼリゼに行ってブニュエルの『昼顔』たぶん二度目。これこそ史上最強のSM映画である! ムチ打たれて恍惚にあえぐカトリーヌ・ドヌーヴの顔といったらもうああどうしようヒデキ感激てなもんだ。ブニュエルとフリッツ・ラングとファスビンダーさえいれば、後は映画なんか一本もなくてもいい、と思うこともある。
14日(金)
 オウム関係の本を大量に買い込んできて、読む。やはり橋本治の『宗教なんか恐くない!』(マドラ出版)がダントツでしょう。この密度の濃さは並たいていのことではない。しかし、いつものことだからなあ。あとは『あれは何だったのか?/オウム解読マニュアル』(ダイヤモンド社)の大月隆寛の文章が、ほぼぼくのオタク理解と共通していた。
15日(土)
 夜11時から塚本晋也の新作『東京FIST』の試写があるので、東中野のBOX東中野まで出かける。藤井かほりのピアス女には大笑い。ほとんど『TETSUO』というか『TETSUO2』そのまんまで、これほど流血するボクシング映画も珍しかろう。しかし、「東京」で「肉体性=獣性の復活」というのはあまりに紋切り型ではないか、という疑問は残る。終わったあと打ち上げパーティがあるので、塚本監督、利重剛、藤井かほり、松本コンチータら有名人の顔をさかなに飲む。アップリンクの浅井さんが来ていたので、「ぼくに断りもなく『ハーフ・ジャパニーズ』のビデオを出すとは何事か」と文句を言っておく(笑)。あと映画監督の篠崎誠氏とも話す。朝まで『電柱小僧の冒険』などを見つつ眠りつしながら終電を待つ。
Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / PDE01513@niftyserve.or.jp