フィリップ・シーモア・ホフマンの汗の臭いは?

◎今月のお仕事 〈SFマガジン〉ジョン・スラデック追悼特集を大監修。よろしく。


5/31(水)
 成田発コンチネンタル便でNYへ向かう。女房が金をケチったもんでコンチになってしまった。小さいもんで揺れるわ、隙間風が吹き込んでくるわ、着くのはニューアークだわ……まあいいか、着いたから。すっかり疲れ切ってしまって、何もせずにすぐ寝る。
6/1(木)
 時差ボケで8時前に目が覚めてしまい、一日中ふらふらしている。ところで、今回来てまず思ったのはボイスの時代は終わった、ということである。ヴィレッジ・ヴォイスがものすごく見にくくなってて、いくら無料でもこれじゃ使えないよ。というわけで今後はTime Out派に鞍替え。

 MOMAに行くという女房と別れ、42丁目の劇場で『MI:2』。ほとんどすべて予想通りで、むしろ懐かしい気持ちにさえなるんだだが、やっぱアクション映画見てノスタルジーに浸れるようじゃ駄目なんじゃないか? まあ楽しくなかったとは言わない。

 その足でストランドに出かけて殺人本を数冊購入。30分ほどしか時間がなかったんで、ほとんど何も見られなかった。ストランドは広すぎる。

 ちょっと遅い昼食を食べたあと、『アメリカン・サイコ』見る。わははは。『ファイト・クラブ』と続けて見ると楽しいリーマン向けブラック・コメディ。名刺合戦には笑ったなあ。リーマンの方々ってやっぱりあんなんでしょうか? とりあえず山形くんの感想とか聞いてみたいものである。


6/2(金)
 何本か電話をしてたら人に会うことになったので、45丁目のオフィスに出かける。現在ディレクTVで放送中(スカパーに移行)のSFチャンネル絡みで仕事の話なのだった。なんか行ったらいろいろと忙しいことになってきたが……大丈夫かな?

 お昼を食ったのち、ニューヨーク最高の映画館、フィルム・フォーラムに出かける。まずはロン・マンの"Grass"。ロン・マンっていうのは『ツイスト』とか『コミックブック・コンフィデンシャル』とか、サブカルの一断面をストック・フィルムとインタビューでまとめるのが得意な人である。で、今回は米国のハッパ対策について。ナレーションはウディ・ハレルソン。レーガンが「マリファナを吸うといろんな害がある……記憶力が衰えるとか」と演説してるのには大爆笑。初代麻薬取締局長官のH・J・アンスリンガーという奴が「共産中国が大麻を米国に持ち込んでいる!」とか議会で証言するところも出てくる。

 そのまま居座ってレズビアン映画特集。今日はイングリッド・ピットの『バンパイア・ラバーズ』とデルフィーヌ・セイリグ主演の"Daughter of Darkness"のレズビアン・バンパイアもの二本立て。"Daughter of Darkness"が凄かった。もうギャグ一歩手前、というかギャグそのものってくらい耽美なのである。デルフィーグ・セーリグが全身銀ラメの謎の女エリザベート・バートリ伯爵夫人を演じて陶酔しまくり。「わたくしはね、少々変わってるって言われるんですのよ。でもやりたいことはやらずにはすみませんの」連続女性殺人事件にからんでバートリを追いかけている刑事が思わせぶりに登場すると、いきなり車に轢かれて死んでしまったり。もう何ひとつわからん。ほとんど芸術。

 終わったら12時まわっている。お茶を一杯飲んで帰る。


6/3(土)

 買い物。

DVD

レコード

 "Tenderness of the Wolves"はウリ・ロメルの唯一の傑作と言われている映画。まあファスビンダー組の作品なんで、ほとんどファスビンダーが演出してるんだろう。"Beyond the Valley of Dolls"のサントラはたぶん海賊盤(英国盤)なんで、そんなに価値はない。でもジャケットが欲しかったから買ってしまった。ずっと探してたレコードだし。

 その後ソーホーのBlast Booksを表敬訪問。ケンとローラから大歓待を受けてしまって、いやまったく申し訳ない感じっす。最新刊である教育映画の研究書をいただく。なんかもらってばかりである。いきなり思い立って出かけたのでお土産もなにもないし。サイテーな感じである。アウトサイダー・ミュージックのアンソロジーを聞いて死ぬほど笑う。

 チャイナタウンで夕食。量が多すぎて半分以上お持ち帰りになってしまった。


6/4(日)
 朝、バスでずーっと北上し、190丁目のクロイスターズ(メトロポリタン別館)に向かう。ヨーロッパから中世の修道院を移築して建てたというふれこみだが、場所も時代も様式もバラバラなものが寄せ集めてあるんで、なんか中世のテーマパークって感じである。たぶん中世学者とか見ると気が狂いそうになるんだろうね。「それはここじゃない! それとこれは関係ない!」とか。まあここはアメリカだから。

 3時から50丁目の劇場でTrue Westを見る。フィリップ・シーモア・ホフマンとジョン・C・ライリーの二人芝居で、サム・シェパード原作。劇作家の弟と砂漠の中で暮らしてているレッドネックの兄……と言えばどう考えてもホフマンが乱暴な兄にイジメられるインテリの方なんだけど、ぼくが見た回はホフマンが兄役だった。日替わりで配役を取り替えてやるらしい。イジメられるホフマンが見られなかったのは残念だけど、その分裸になるのでビール腹をたっぷり堪能できた。しかも席がかぶりつきだったもんで、汗が飛んできそうな……

 家に帰り、お二人さんも出てくるトニー賞中継を見ていたが、じきに寝てしまった。


6/5(月)
 ニューアークからまたしてもボロ飛行機でワシントンDCへ。昔ジャマイカへのトランジットで一泊したことはあるが、実質的にははじめてみたいなものである。今回は基本的に妻の用事なんで、ぼくは何もすることがない。ぼけらーっ。

 公共輸送機関は嫌と言うほど発達しまくっているワシントンだが、どうも歩きにくい。実際には自動車がないとどこにもいけない街である。まあ、ニューヨークから来たからよけいそう思うのかな。


6/6(火)
 とりあえず妻と一緒に国会図書館へ行く。妻はこれから3日間ここに篭もりきりで無声映画の伴奏楽譜を探す。手順がわかるまでは妻と一緒にいたが、そのあとは別にやることがないのでアメリカの新聞のマイクロフィッシュを調べたり。とりあえず1981年にミルピタスであった殺人死体遺棄事件の話を調べたんだけど、よく考えたらこの程度のものだったらアメリカン・センターにでも行けばあったかな?

 午後はFBI本部に行って見学ツアー。案内係の女性が全員黒人女性だったのには笑った。いくらなんでもやりすぎだよ。FBIが過去にあげてきたかくかくたる戦果を自慢するための展示なので、フーバー長官の女装写真とかそういうものはない。ディリンジャーのデスマスクと、愛用のトンプソン・ガンが飾ってあった。ちなみにディリンジャーは後頭部を打たれて弾が前に抜けたので、目の下に銃弾が抜けた穴が開いている。


6/7(水)
 今日は妻と別れ、ボルチモアへ。アムトラックで40分ほどの距離である。ボルチモアへ来るのはジョン・ウォーターズに会ったとき以来だから、ほぼ2年振り。史上最高の好景気に沸くアメリカだが、ことボルチモアに関してはあまり事情が変化しているようには見えず、あいかわらずダウンタウンには仕事のない黒人がウロウロしていて突き刺すような雰囲気である。でも『ペッカー』の冒頭でバスに乗ってるのとそっくりな黒人の女の子が歩いてたりするとちょっと得した気分。もちろん映画じゃないからだいぶ殺気を発してたりして。

 バスに10分ほど乗って漁港フェルズ・ポイントへ。今はなぜか骨董品街になっているんだが、その中に、昔イディス・マッセイがやっていた古着屋フラッシュバックがある。前回のウォーターズ巡礼ではなぜか行き洩らしていたので、今回忘れずにチェック。しかし行ってみるとなんということはないただのジャンク・ショップだった。店主もデブ女じゃないし(当たり前だ)。

 その後メリーランド・アヴェニューのAmerican Dime Museum (1808 Maryland Avenue)を訪問。これはShocked and Amazedっていう世界唯一のサイドショー雑誌を出しているジョン・テイラーが自分のコレクションを展示しているもので、サイドショーに展示されていた保証付きの偽物(フィジーの人魚とかミイラの手とかそういうもの)ばかりがずらりと並べられた素晴らしい場所である。もちろん中には本物もある。がどれがそうなのかは教えてくれない。

 その隣に移転したAtomic Booksを表敬訪問し、店長のスコット・ハフィンズとちょっと話す。なんでもジョン・ウォーターズはテレビCMを撮ったんだそうで、「30秒のCM二本で『ペッカー』の監督ギャラよりいっぱいもらった」とか。新作"Cecil Be Demented"は8月全米公開で、ボルチモアでワールド・プレミア。「来るか? チケット取ってやるぞ?」と言われたが……うーんさすがにそれは……デヴィッド・リンチの『アルファベット/グランドマザー』が入った海賊盤ビデオを購入して辞去。


6/8(木)
 ジョージ・ワシントン大学の学食で仕事する。コーヒーショップはスターバックスなんだが、セルフサービス方式である。スターバックスってたしか一杯ずつちゃんとした手順で淹れる! 店員は全員教育を受けている! とかって威張ってたんじゃなかったっけ? お世辞にもうまいとはいえないコーヒーを飲みながら2時間ばかり粘ってたが、冷房が効きすぎて寒くなってきたんで辞去。

 ホテルに帰ったらベッドメイクが途中で終わっていた(笑)。チップをケチったから反乱を起こされた!?


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Kiichiro Yanashita / 柳下毅一郎 / kiichiro.yanashita@nifty.com