二階堂卓也インタビュー

絶賛発売中! 『マカロニ・ウェスタン/復讐と快楽の美学』(問PSC03-3409-7294)より転載!


柳下 ガースでーす。
町山 ウエインでーす。
バカ 二人合わせて知る人ぞ知る映画漫才コンビ、ファビュラス・バーカー・ボーイズでーす。本日はこの道の泰斗、二階堂卓也先生にお話をお聞きするんですが、煩雑になるので僕らの発言は「バカ」ということでまとめちゃいます。二階堂さん、よろしくお願いいたします。編集部からもらったお題は、「マカロニのバカバカしい世界」ということなんですが。
二階堂 あんまりバカにするなよ。マジメに見てたんだから。真剣だったんだよ。
バカ す、すみません。僕は増田貴光の土曜洋画劇場とか、水野晴郎の水曜ロードショーとか、テレビでしかマカロニ観たことがなくて。
二階堂 「いやあ、マカロニってほんとうにくだらないですね」ってやつだろ。いや、俺も後になって考えたらなんといい加減なことかと思ったけどね(笑)。

殺せば殺すほど面白い

バカ 最初に『荒野の用心棒』を見たときは、やっぱり衝撃でしたか?
二階堂 いや、面白い面白いって評判だけは聞いてたんだけどさ、あの映画は、ちょうど封切られたのが受験のころでさ、高校三年生の十二月なんだよ。観れる状態じゃない。だから学校うかってさ、その日に飛んでったわけだよ。
バカ どこで観たんですか?
二階堂 吉祥寺武蔵野館。二番館に落ちたから二本立てでさ、併映がつまんない映画なんだよな。『太陽のかけら』とかいう、スウェーデンかなんかの。見たくないんだけどさ、『荒野の用心棒』二回観たいから、それも見ないわけにいかないんだよ。だから、『太陽のかけら』のあいだは寝てた。
バカ 『荒野の用心棒』は、最後の決闘で防弾に鉄板使うのが見せ場でしょ。雑誌の紹介とか読んでると、観る前にそういうのが目に入ってきませんでしたか?
二階堂 忘れたよ、そんなの。
バカ 黒澤の『用心棒』のパクリだと言われてましたが。
二階堂 そっちは後から見たんだ。びっくりしたよ、ああ、本当に同じだねえと(笑)。でも、俺にとっては『用心棒』といえば『荒野』なんだよ。先に黒澤さんの見てれば、真似じゃねえかと思うんだろうけどさ。観る順番って大事だと本当思うよ、俺は。
バカ ぼくも黒澤の方を後から見たんですけど、ラストはレオーネの方が全然おもしろい。黒澤の方に鉄板バゴーンってのが出てこないんでガッカリしませんでした?
二階堂 しないよ、子どもじゃないんだから(笑)。
バカ それまでもアメリカの西部劇観てました?
二階堂 そりゃもちろん。でも、俺はジョン・ウェインだとかゲーリー・クーパーよりも、あんたら知らないだろうけどオーディ・マーフィーが好きでね。ピストル小僧と言われてた人だからさ、『野郎! 拳銃で来い』だとか、『シマロン・キッド』だとか、あまり肩の凝らないもんに出てたんだ。
バカ じゃあ、やっぱりガン・アクション派でした?
二階堂 当然だよ。
バカ ジョン・スタージェスはどうでした?
二階堂  んなもん好きじゃねえよ。
バカ  え(絶句)、でも『荒野の七人』とか……。
二階堂  あ、スタージェスね。ジョン・フォードと間違えたよ(笑)。年とるとアルツハイマーきちゃってなあ(笑)。スタージェスは好きだったよ。フォードの『荒野の決闘』とスタージェスの『OK牧場の決闘』どっちがいいって言ったら、そりゃ当然『OK牧場』だよ。愚問だよ(笑)。
バカ  やっぱり西部劇はドンパチだ、と。
二階堂  あったりまえだよ。フォードっていえば、『馬上の二人』って映画があってさ。全然撃ち合いしねえんだよ。ふざけるなと思ったね。
バカ  でも、スタージェスよりフォードのほうがいい西部劇ってことになってますね。
二階堂  結局さ、評論家ってジイさんが多いだろ。その人たちはもう西部劇をずーっと見てるわけだよ、それこそ戦前から。西部劇を見てるキャリアは、俺たちとは違うから、西部劇ははこうあるべきだ、開拓精神だの詩情だの、言うわけよ。でも、俺たちにはそんなのないからさ。そりゃ、もちろん俺だって『シェーン』とかが悪い映画だとは言わないけどさ。
バカ  でも『シェーン』でいちばんいいのは黒づくめの殺し屋ジャック・パランスですよね。
二階堂  そうだろ? こんなスダレぶらさげたシェーンじゃねえよ(笑)。結局、映画ってそういうもんだろう(笑)。
バカ  じゃあ、二階堂さんにとって西部劇とは何でしょう?
二階堂  そりゃ、早い話、ピストルで人をぶち殺す映画のことだよ(笑)。
バカ  で、アメリカの西部劇よりマカロニの方がいいやって思ったわけですね。
二階堂  こっちのほうが拳銃ガンガン撃つし、人もいっぱい死ぬから面白えや、ってね。結局何人殺すかだよ(笑)。

ジャンゴは最高だ

バカ  それでいくと一番面白いマカロニは?
二階堂  『続・荒野の用心棒(ジャンゴ)』だろうな、やっぱり。
バカ  ガンガン殺しますからね。
二階堂  あのなあ、ただ殺せばいいってもんじゃねえんだよ。『ジャンゴ』はやっぱり脚本がいいんだろうね。人が死ぬ場面にあんまり無理がないね。やっぱり殺されるべくして殺されてる(笑)。
バカ  ガンプレイのアイディアもてんこ盛りですからね。
二階堂  そうか? 俺はマネばっかりって気がするけどね(笑)。よく見ると、あれは『荒野の用心棒』そっくりなんだよな(笑)。見た当時はわかんなかったけどな、後から考えると……。でも、本当はどっちが先かわかんないんだよ。『続・荒野の用心棒』ってタイトルも配給元の東和が勝手につけただけだしな。日本での公開は後だけど、イタリアで作られたときはコルブッチの方が先かもわかんない。資料がねえんだよな。でも、それがわかったところで関係ないしね(笑)。映画ってのはおもしろければいいわけ。俺たちは批評家じゃないからね、おもしろいか、つまんないかってだけだよ。
バカ  そういえば、マカロニでお馴染みマシンガン大虐殺は『荒野の用心棒』にもありましたね。
二階堂  マカロニ機関銃な(笑)。よく出てきたな、あちこちの映画に(笑)。
バカ  レンコンみたいになっててあちこちから火が出るバカ な機関銃(笑)。
二階堂  あれこそマカロニ・ウェスタンの象徴だね。いい加減やめろって思うんだけど、(笑)。
バカ  最初にジャンゴが棺桶ズルズル引きずって町に現れて、なんだろうと思うとそこから機関銃取り出すというアイデアはスゴイですね。
二階堂  あのファースト・シーン観ただけで誰もあの映画は忘れないよな。
バカ  ジャンゴって黒づくめですけど、吸血鬼ドラキュラも黒づくめでしょう。それで、ルーマニアから棺桶を持ってくる。枕がかわると眠れないからって。ジャンゴってドラキュラのイメージじゃないですか。
二階堂  俺はないと思ったよ(笑)。なんかおまえら映画評論家みたいなこと言うな。コルブッチは、単にガンマンが馬に乗らずに棺桶引きずってくる絵を撮りたかっただけじゃないの。
バカ  でも、ラストでジャンゴが十字架が立ち並ぶ墓場に追いつめられるのも、なんか意味深ですよ。
二階堂  まあ、そういう勝手な想像ができる楽しさってのはあるよな。『ジャンゴ』っていろんな深読みができるから面白いんだよ。

荒唐無稽! マカロニ殺法

バカ  で、ジャンゴは両手つぶされて拳銃が使えないんだけど、拳銃の用心鉄を外して、十字架の金具に引っかけて敵を皆殺しにするときに、「アーメン」って唱える。
二階堂  それ、「捨て身の十字架撃ち」って言うんだよ。東和が勝手につけたんだけどな(笑)。
バカ  当時の新聞広告見るといろんな「殺法」が書いてありますね。
二階堂  墓といえば「荒野の墓堀り殺法」ってのもあったな(笑)。『ガンマン無頼』でさ。フランコ・ネロが墓穴掘ってると、悪党どもが「三人用のだからもっとでかくしろ」とか言うわけよ。するとネロが振り向いて「これは五人用だ!」とか言ってダダダダッと撃つんだ。
バカ  こないだテレビで十年以上経って作られた『ジャンゴ』の続編が『灼熱の戦場』とかいう戦争映画みたいなタイトルでやってまして、やっぱりラスト、フランコ・ネロが墓場に追い詰められて、墓穴掘らされるんですよ(笑)。
二階堂  で、墓穴の棺桶の中から例のマカロニ機関銃が出てきて、それでダダーッて敵をみんな殺すんだろ。またやってるのかと思ったよ(笑)。
バカ  勝手にテレンス・ヒル主演で作った『皆殺しのジャンゴ』も同じラストでしたね。どういう関係なんですか、あれは?
二階堂  そんなこと俺に聞いたって知らないよ。でも、マカロニじゃ珍しいことじゃないよ(笑)。
バカ  ライフルのスコープを貫通して目玉に弾が食い込むってのもありましたね。
二階堂  『さすらいの一匹狼』。
バカ  あれ、その後、日本で『ルパン三世/念力珍作戦』にパクられてるんですけど……。聖書の中に拳銃隠してるのってなんでしたっけ?
二階堂  『殺して祈れ』のフランコ・ネロじゃないか? まあわかんないよ、聖書の拳銃っていっぱいあるから(笑)。『荒野の三悪党』とか、いろんなのでやってるから。一概に言えない(笑)。『黄金無頼』かな? 誰でも考えることなんだよ(笑)。オリジナリティなんかないんだから、あそこには。
バカ  『座頭市』パクったようなマカロニもありましたよね。
二階堂  なんでもかんでもパクリにするんじゃないよ。『ミネソタ無頼』のことだろ。「めくら殺法居合い撃ち」ってね。あれは、『座頭市』ってよりはロバート・ライアンの『誇り高き男』だろう。これもコルブッチなんだな。
バカ  ガンプレイといえば、クリント・イーストウッドはいつもファニングで六人ぐらい一瞬で皆殺しにしますけど、銃が敵の方を向いてなくても敵が勝手に倒れたりして…。
二階堂  あのな、それはなぜかと言うとね、マカロニ・ウェスタンだからだよ(爆笑)。そのいい加減さを面白がれるかどうかなんだよ。

残酷ゲテモノ西部劇

二階堂  ガンプレイで一番おもしろかったのは『真昼の用心棒』でさ、「大回転ワゴン撃ち」ってんだよ。フランコ・ネロが馬車に乗って悪党どもに突っ込んでくるんだよ。で悪党どもは馬車をよけて見送るだろ、そこでなぜか横木があって、フランコ・ネロが木に飛び移って、くるりと一回転して、敵の後ろに降りてばばばっと撃つとどんどん倒れてくわけだよ。場内大喝采(笑)。もう拍手喝采よ。観客とな、画面がまさに一体になるんだよな。『ガンマン無頼』の「墓堀り殺法」だって場内拍手大喝采よ(笑)。あれは新宿ピカデリーで見たのかな。あんな大劇場で、場内大喝采したもんだ。
バカ  僕らはテレビでしか観てないんでわからないんですが、マカロニの劇場って野郎ばっかりだったんでしょうねえ。
二階堂  なんで?
バカ  出てくる男は、みんな油ぎって汗まみれじゃないですか。
二階堂  そりゃ、ロケ地のスペインが暑いからだよ(笑)。
バカ  そうじゃなくて、みんな髭面で薄汚いでしょ。
二階堂  ドーラン焼けで茶色い顔しててな、それがテクニカラーのギラギラした色調で、テクニスコープにどアップになるんだよな。
バカ  彼女なんて連れて行けないでしょう。
二階堂  そんなことねえよ。女連れも来てたよ。
バカ  二階堂さんも?
二階堂  彼女? いるわけないだろ。いたら映画なんか行かねえよ(笑)。あのな、映画ってのは一人で見るもんだよ(笑)。映画と本屋と競馬はな(笑)、女と行ったって気が散るだけだろうが。
バカ  女の子は無理矢理マカロニ見せられてたんですかね。
二階堂  コワイもの見たさでけっこう楽しんでたんじゃないの。今で言えば『十三日の金曜日』みたいな感じで。リンチで手ェつぶす場面とかでさ、キャーって言って抱きついてくる(笑)。
バカ  僕らは子どもだったから、マカロニ・ウエスタンに必ず出てくるリンチ場面がもう痛そうで恐くてチャンネル替えたりしたんですけど。『真昼の用心棒』なんて、撃たれて穴のあいた額をアップにしたりして気持ち悪くて。
二階堂  あれがルチオ・フルチだよ(笑)。銃を腹に押しつけてドン、と撃つのを最初にやったのも『真昼の用心棒』だね。フルチはあそこまでだね。後は『サンゲリア』とかヒドイの撮るようになるけど。
バカ  残酷だともっとすごいのをテレビで観たんですが、トマス・ミリアンの……。
二階堂  『情無用のジャンゴ』。喜びいさんで行きましたよ(笑)。インディアンの頭をはぐとことかね。
バカ  あれ、テレビでは残酷シーンがカットされてたんですよ。悪党の体に撃ちこんだ弾が黄金製だとわかって欲に目の眩んだ手下どもがいっせいに襲いかかるシーンとか。
二階堂  あれはまだ生きてるボスの傷口にみんな手を突っ込むんだよ。
バカ  やっぱ突っ込みますか(笑)。
二階堂  そりゃ突っ込むよ。監督ジリオ・クエスティだもん。後年、『殺しを呼ぶ卵』とか、ホラー方面に行っちゃう人だから。たぶん安い監督料で、西部劇なら作らせてやる、みたいなことがあったんじゃないの? だから習作だな、あれは。
バカ  最後に火事で屋根裏に隠してた金塊が溶けて、どーっと悪党の顔にかかる。
二階堂  ああ、黄金仮面な。俺たちは黄金仮面って言ったもんだよ(笑)。これは今は亡き東京第一フィルムの配給だったんだけど劇場はガラガラね(笑)。

女子どもは喜ぶジェンマ

バカ  『南から来た用心棒』でも最後の悪役の殺し方がすごいですよね。
二階堂  あんなのすごいか? 右手撃って左手撃って右足撃って左足撃って、最後胴体撃つとドーンと倒れて棺桶の中に入っちゃうやつだろ。ご丁寧に棺桶の蓋まで閉まるんだよな。バカバカしい(笑)。
バカ  でも、さっきバカバカ しいのがいいって……。
二階堂  許せるバカバカしさと許せないのがあるだろ(笑)。『南から来た用心棒』ってのはカスだよ。
バカ  僕は子どもの頃水曜ロードショーで見たんですけど、おもしろかったんですよ。両腕をつぶされたジュリアーノ・ジェンマが造り物の腕をぶらさげて、ポンチョの下で本当の腕で銃を撃つラストとか。
二階堂  「ファントマ撃ち」ってんだよ。それは東和がそのころ『ファントマ電光石火』とか公開してたからってだけだよ。それだけの話(笑)。
バカ  ジェンマって他のマカロニの人みたいに脂ぎってないから好きでしたけど。
二階堂  だから子どもだってんだよ(笑)。
バカ  それに、ジェンマってアクションがすごいでしょ。なんか曲芸的みたいで、クルクル回ったり。
二階堂  回りゃあいいってもんじゃないよ(笑)。ネロだって回ってるよ、「大回転ワゴン撃ち」で(笑)。あいつは元体操選手かなんかだろ。結局ジェンマってのはさわやかなスポーツマンでしかないんだよ。泥だとか血とか復讐とかが似合わないんだよな。確かに本数は多いけど、マカロニ・ウェスタンに必要な凄みがまるでないな。
バカ  でも人気はすごかったんでしょ?
二階堂  女子供にはな。女子供はジェンマに走り、真の大人はネロに走る、だよ。だって演技力だって違うじゃないか。フランコ・ネロはどんどん国際スターになっていったけどさ、ジェンマは結局イタリア国内どまりだったろ。グルーミイなフランコ・ネロがさ……ネロってのはイタリア語で黒いって意味だから。
バカ  そういえばジャンゴは黒づくめで出てきますね。
二階堂  そりゃ偶然だよ。でも名は体をあらわすだよ。だいたい、『南から来た用心棒』ってのは監督がミケーレ・ルーポだろ。駄目な男だよ(笑)。下手だもん、演出が。ひとつも傑作は作っちゃいませんよ。ただ、なぜかミケーレ・ルーポとコルブッチの二人は、日本の配給会社に買われてるんだな。イタリア史劇、ヘラクレスの剣闘士ものの頃からそうだったんだよ。監督がミケーレ・ルーポというだけでダメだと思ったけどな。史劇のころからあいつはメリハリがないんだ。酒場で乱闘シーンとかあると、延々とやってるわけよ。もう終わるかと思っても全然終わらない(笑)。
バカ  でも、観に行ってるんでしょ。
二階堂  行ったよ。そりゃ当然な。それはまだマカロニ・ブーム始まったばかりで、新鮮さもあるし。新婚半年くらいのもんで、何でも楽しい頃だからな。でも、やっぱりルーポはダメだと。まあ、あんたたち子供はわかんないんだろうけど、『荒野の用心棒』と『続・荒野の用心棒』を見ちゃうとさ、どうしてもあの二本と比べちまうわけだよ。あの二本より面白いかどうかだよ。まあ、あれより面白いのなんてないんだけどさ(笑)。

人間離れしたマカロニ悪役面

バカ  あと、『南から来た用心棒』は、太ったメキシコ人の悪役が印象深いです。
二階堂  フェルナンド・サンチョのことだろ。
バカ  マカロニって聞くとあの顔思い出すなあ。特にどの映画ってことはないですけど、あの人がソンブレロかぶってガンベルトをたすきがけにして、鉄砲を空にむけてガンガン撃ちながら、「女は犯して、男は殺せ!」って言うの。
二階堂  だから、マンガだってんだよ。サンチョってのはもともとコメディアンだからな。スペインのな。マカロニ・ウェスタンの悪役はスペイン人と決まってるんだよ。現地調達ってやつだな、安いから。だからメキシコの話ばっかりになってくるんだよ、だんだん。
バカ  悪役がドイツ人という場合もありますよね。
二階堂  クラウス・キンスキーな。あいつも死んじまったな。マカロニは『夕陽のガンマン』が最初かな。
バカ  なんだ、このフランケンシュタインみたいな顔は、って思いませんでしたか?
二階堂  いや、マカロニじゃあのぐらいの面は序の口よ(笑)。やっぱりオーディションしてるのかね。実際、悪役は一度見たら忘れられないスゴイ顔の奴ばっかりだからな。
バカ  『さすらいのガンマン』の髪の毛がまばらで気持ちの悪い顔のギャングのボス。
二階堂  アルド・サンブレルっていってな。やっぱりスペインの俳優だよ。
バカ  自分がインディアンとの混血で、そのためにインディアンを憎んで頭の皮はいだり、発作的に人を殺しまくる完全に気の狂った奴で。
二階堂  あいつは新聞広告のメイン張ってるからね、あの顔で。原題は『ナバホ・ジヨー』で、主役はバート・レイノルズなのに、アルド・サンブレルのほうが大きいんだよ。俺、こっちが主役かと思ったんだもの(笑)。
バカ  最後、この気持ち悪い顔のド真ん中にバート・レイノルズが斧をぶちこむんですよね。
二階堂  この映画もコルブッチの監督だよ。
バカ  変わった悪役だと『野獣、暁に死す』に仲代達也が出てるそうですが、日本人の役なんですか。
二階堂  仲代はメキシコ人と、インディアンの混血か。困るとすぐ混血にしちゃうんだよ(笑)。
バカ  『夕陽のガンマン』で最初にリー・ヴァン・クリーフにホテルの部屋で襲われて、逃げて遠くからライフルで撃たれる奴の顔も忘れられないですね。
二階堂  ああ、歯並びのヒドイ奴。あいつ『ジャンゴ』にも出てたでしょ。あいつ名前わからないんだ。
バカ  撃たれる前にすごいアップになるから嫌でも覚えちゃう。
二階堂  セルジオ・レオーネはなんでもかんでもアップなんだよ(笑)。
バカ  追う方のリー・ヴァン・クリーフもスゴイ変な顔ですけどね。
二階堂  ハゲタカみたいな。クリーフは『真昼の決闘』なんかではロクにセリフも役名もないけど、あの顔で覚えちゃったもんな。それが『荒野の用心棒』の続編に出るためにイタリアに呼ばれたってニュースを当時の映画雑誌で読んだときは、「レオーネ、わかってんじゃん」って思ったね。

レオーネはスパゲティ食ってろ!

バカ  リー・ヴァン・クリーフってお師匠ってイメージがありますよね。
二階堂  ああ、『夕陽のガンマン』からな。
バカ  クリーフは『怒りの荒野』の拳銃師匠が良かったですねえ。
二階堂  ああ、あれはまあまあだな。トニーノ・ヴァレリ監督の。あいつ、レオーネの助監督だったんだ。ガンマン十戒ってのがよかったな(笑)。
バカ  親を殺されて復讐を誓うジェンマにクリーフが「ひとつ、ガンマンは必ず相手にとどめをさすべし」とか教えるんですよね。クリーフの馬上の決闘も、ものすごく格好よかったし。音楽も大音響でハデで。
二階堂  ただドラマがな。クリーフがジェンマの親の仇だったとわかってから、クリーフがセコイ悪党になっちゃうだろ。
バカ  単に金目当ての小悪党にね。
二階堂  もうちょっとやりようがあったと思うんだけどな。あの辺がトニーノ・ヴァレリの限界だよ。よく作ってるとは思うよ、だけどあの映画が一級にならならないのはそこら辺だよ。
バカ  『夕陽のガンマン』は『怒りの荒野』と逆で、クリーフを最初悪玉だと思わせといて、実は善玉だったってオチですよね。
二階堂  それが弟子と師匠の差だよ。やっぱり弟子は師匠に勝てなかったね。
バカ  セルジオ・レオーネは続く『続・夕陽のガンマン』で西部劇の本場アメリカでも絶賛されますね。日本でもそれまでマカロニをバカ にしてた批評家たちが、レオーネだけは別格だと急に評価しはじめた。
二階堂  何言ってんだよ。『続・夕陽のガンマン』なんてな、マカロニ・ウェスタンのワースト1だよ。『南から来た用心棒』の方がまだ面白いよ(笑)。
バカ  でも、南北戦争再現したりしてスケールはデカいし……。
二階堂  あんな戦争シーン、全然ストーリーに関係ないじゃないか。必死にアメリカ西部劇に近づこう近づこうとしてるだけだよ。レオーネ、お前がどれほど西部劇が好きか、アメリカが好きかはわかったよ、でも、お前はしょせんイタリア人だろっての。おまえはスパゲッティ食ってればいいんだって。おまえはイタリア人ならなんでイタリア映画作らないんだっての。『続・夕陽のガンマン』はマカロニ・ウェスタンじゃないよ。
バカ  よくできたアメリカ映画のサルマネにすぎない、と。
二階堂  そう。次の『ウェスタン』なんてひどかった。とうとうアメリカにまでロケにいっちゃってさ。ほんとに行ったのかどうかわかんねえけど(笑)。バカ のひとつおぼえでアップばっかりで何が何だかさっぱりわかんねえの。あともう一本あったろ。
バカ  『夕陽のギャングたち』?
二階堂  そうそう。まったく許せねえなあ、もう(笑)。狂ったかレオーネてな気分だったよ。悪役がロッド・スタイガーだろ? ダメよ、もう。本人はどう思ったかしれないけど、レオーネってのは、早稲田はうかるけど東大は無理なんだよ。せいぜい六大学……東都六大学だな(笑)。それを背伸びしすぎなんだよ。だからルチオ・フルチなんて偉いんだよ。バカ にされてもグロひとすじ二十年だろ(笑)。

セルジオならレオーネじゃないよ

バカ  天下のセルジオ・レオーネもボロカスですね。
二階堂  同じセルジオでも、俺はコルブッチの方を評価するよ。コルブッチはアメリカに行きたい、とかって色気はないでしょう、絶対。
バカ  コルブッチはさっきから何度も出てきますね。
二階堂  やっぱり大きいんだよ、あの男の存在ってのは。コルブッチを語ればマカロニ・ウェスタンはわかっちゃうの。それほどの男だよ、あれは。実際さ、コルブッチの『ジャンゴ』を見ちゃうとな、もう駄目なんだよ。なんつーか……素晴らしい売春婦に会ったようなもんだな(笑)。手連手管にやられてメロメロにされちゃってさ、女学生なんかどうでも良くなっちまうんだよ。それだけ『ジャンゴ』って映画はすごかったんだよ。あんたらはどうだった?『ジャンゴ』見てさ。
バカ  いやあ、西部劇といえば砂漠だと思ってたのに、ジャンゴは雨上がりで泥泥の地面を歩いて登場するでしょ、あれで驚いて。
二階堂  そうだろ。馬に乗らないガンマンなんて西部劇では意表を突いてるしな。
バカ  『さすらいのガンマン』のクライマックスが銃撃戦じゃなくて刃物で闘うというのもヒネってますよね。
二階堂  『殺しが静かにやってくる』じゃあ雪だろ。西部劇で雪ってのも驚かされるよ。この映画はもう雪見てるだけでいい(笑)。だけど、最後にリンチされた主人公が普通逆転勝ちするところを、あっさり殺されちゃうというのも、裏切ってくれるよな。
バカ  そうすると、レオーネは本家アメリカ西部劇に近づこう近づこうとしたけど、コルブッチは逆にできるだけ違うことをやろうとしていた、ということですか?
二階堂  ま、そういうことじゃないの。その点ではやっぱりレオーネよりコルブッチの方が偉いよ。誰も評価しないけどさ(笑)。世界中の映画評論家が集まって、監督辞典作ろうかってことになっても、誰もコルブッチなんか選ばねえよ(笑)。だけど、本当の映画の快楽みたいなのを与えてくれたのはコルブッチですよ。レオーネも最初の一、二本はそうだったけどね。だけど最後の最後までそこに殉じたのはもう一人のセルジオですよ。

マカロニにかけた青春

バカ  あと名前の出てない監督で、ドゥチォ・テッサリなんかどうですか?
二階堂  ありゃあC級だな(笑)。ジェンマの育ての親なんて言われてたけど、冗談じゃないよ。
バカ  『荒野の大活劇』とか好きだったんですけど。
二階堂  軽いんだよ。テッサリとかミケーレ・ルーポとか。
バカ  ダメですかあ。僕、エンツォ・カステラーリも好きなんですが。彼が七六年に作った『ケオマ』ってウエスタンありますよね。あれってアメリカじゃあ『マッドマックス2』の元ネタだって言われてるそうですが。
二階堂  そんなの嘘だって(笑)。信じられないね、そんなことは。
バカ  疫病で人が死滅したゴーストタウンに銃身を切り詰めた水平二連のショットガンを持ったケオマという男(フランコ・ネロ)がやってくるという……。
二階堂  だってカステラーリだよ。どうして、ルーポだのテッサリだのカステラーリだのダメなのばかり好きなんだ(笑)。
バカ  空手ブームの後にイタリアは『荒野のドラゴン』って作りましたね。
二階堂  ああ、あれは傑作だよ(笑)。あれこそイタリア映画史上に残る大傑作だよ(笑)。あれほどムチャクチャな映画はない。「やっぱりやったか!」と思ったね(笑)。俺飛んでったよ。ガラガラで、五人くらいしかいなかった。
バカ  トニーノ・ヴァレリの『ミスター・ノーボディ』は?
二階堂  駄目だね(笑)。主演がテレンス・ヒルだもん、どうしようもないよ。
バカ  セルジオ・レオーネがプロデュースで。
二階堂  それだけのもんだよ。あれはもう十年目の映画だからね、十年たてばいろいろ変わるよ。作り手もね。結局ね、マカロニ・ウェスタンが面白かったのって六七年までなんだよ。
バカ  え、じゃあたった二年しかないじゃないですか!
二階堂  そうですよ。わずか二年間。
バカ  じゃあその後も延々追いかけてるってのは……
二階堂  そりゃむなしい気持ちもあったさ。でも、裏切られても裏切られても、もう一度てなもんだよ。自分でも何度やめようかと思ったかわからないよ。でも今度こそは、と思うわけだよ。惚れたら仕方ないんだよ。悪女の深情けってやつだね(笑)。「まだマカロニなんて観てんの」なんてバカ にされてだな、よし、こうなったらとことん最後まで付き合おうって気持ちもあったしね。最後まで付き合ったぜ。
バカ  最後のマカロニ・ウエスタンってなんですか?
二階堂  『ロス・アミーゴス』だね。これで終わったと思ったね。フランコ・ネロとアンソニー・クインでさ。監督が二流の奴だよ、パオロ・カバーラか。話もつまらないし、マカロニ機関銃がまた出てくるわけだよ(笑)。もう進歩もないし、何も変わっちゃいないな、と。ラストでフランコ・ネロが泣き叫ぶんだけどね、それがストップモーションになるんだ。それを観て、ああ、これで終わりなんだな、と思ったね。
バカ  青春の……
二階堂  終わりだね、あれで。

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Garth Yanashita / ガース柳下 / PDE01513@niftyserve.or.jp