初出:Men's Club 2000年1月号
ガース柳下 特殊翻訳家の ガース柳下です。今月から『メンズ・クラブ』映画欄を映画漫才ファビュラス・バーカー・ボーイズで仕切らしていただきます。で、一発目は『メンクラ』にちなんで『ファイト・クラブ』!
ウェイン 面白いだろ? さすが、ロジャー・エバートに「これは性欲の代わりに反社会的思想を刺激するポルノだ!」って害毒扱いさただけのことはある。
ガース エバートみたいにピュアリッツァー賞受賞のおエライ評論家先生は、こんな映画ホメたらいかんでしょう。でも、『ファイト・クラブ』って、エバートがシナリオ書いた 『ワイルド・パーティ』(70年)のパロディやってるんだよね。口に突っ込んだ拳銃から回想がはじまる構成が。
ウェイン あのオープニングは最高! ダスト・ブラザーズのビートでかっとばす!
ガース 話を説明すると……何をしても退屈でノイローゼ気味のサラリーマンが主人公で、 変な男(ブラッド・ピット)と出会って殴り合いしてみたら、初めて生きてる実感がつかめた。そのうちに仲間が集まってファイト・クラブという秘密クラブに発展する。
ウェイン ゲーセンで『バーチャ・ファイター』やってるサラリーマンみたいだよな。会社じゃ目立たない幽霊社員だけど、対戦してるときだけはヒーロー気分。
ガース 現実感が持てなくなった人間が自傷に走るのはクローネンバーグの『クラッシュ』そっくり。で、ファイト・クラブはだんだんテロ集団になっていくんだけど、これって、オウムがヨガ教室からテロ組織に成長していった過程と同じだよね。
ウェイン じゃあ麻原はブラピ? グレート義太夫にするべきだろ。
ガース レオス・カラックスの新作『ポーラX』って見た? お城みたいな屋敷にキレイなお母さんと一緒に住んでるお坊ちゃんが、「このままだとダメになる」って言って家出する。ところが大人の社会に入らずに、社会を破壊する武装カルト集団に入っちゃう。
ウェイン オウムにボンボンが多い理由がよくわかる(笑)。オレ、『ファイト・クラブ』って『マトリックス』と同じ話だと思ったよ。うだつのあがらないサラリーマンが「オレがショボいのは、世の中のほうが間違ってるんだ!」ってテロるわけで。
ガース 早い話、オタクの逆ギレ(笑)。
ウェイン だからラストでブラピが『ドラゴンへの道』のマネを始めたときは「お前もか!」と思って頭痛くなっちゃった(笑)。みんなブルース・リーを見た中学の頃で精神年齢止まっちゃってるんだ(笑)。
ガース やることもテロというよりゃ中学生のイタズラって感じだし(笑)。
ウェイン ディズニーあたりの御家族向け映画にチンポのフィルムを混ぜたり(笑)。
ガース 日本ではボカされちゃうけどね。
ウェイン デヴィッド・フィンチャー監督は、この『ファイト・クラブ』っていう映画自体にチンポのイメージをサブリミナル的に散りばめたんだってさ。
ガース 睾丸ガンの患者のセラピーに参加したり、やたら「キンタマ切るぞ」って脅すとか、去勢コンプレックスにとりつかれてる。
ウェイン 映画の中のセリフを借りると「こんな戦争も貧困もない平和な世の中で暮らしてると、自分が本当の“男”である実感がつかめない」ってのがテーマなわけだ。
ガース 塚本晋也の新作『バレット・バレエ』も同じ話だったね。おとなしいサラリーマンが、夜な夜な乱闘してるチーマーたちに魅せられていく。
ウェイン 『バレット〜』のサラリーマンは拳銃が欲しくてたまらなくなるんだけど、わかりやすいほどチンポの象徴。そういえば『タクシー・ドライバー』の主人公トラビス もインポだから拳銃を欲しがるんだよ。
ガース 『ファイト・クラブ』が面白いのはテロる対象が一流ブランドやクレジット・カード会社だってとこ。ギャップとかスターバックスとか実在の社名がモロに出てくるあたりはB・イーストン・エリスの『アメリカン・サイコ』に似てる。
ウェイン ブランド物をカードでお買い物してると、女の腐ったような男になっちまうぞ! 暴力で男らしさを取り戻せ! ってことだよ。
ガース んなこといったってしょせん金玉レベルだからなあ(笑)。これ、町山さんの話じゃないの?
ウェイン なにが? ヘレナ・ボナム・カーターをヒイヒイ言わせちまうとこ?
ガース 悪口言われたからって中学生レベルの殴りこみするとこだよ! 『キネ旬』にパイ投げて男になれた?
ウェイン 男にはなったけど会社は辞めなきゃなんなかったなー。